竜とそばかすの姫のレビュー・感想・評価
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正当な評価を受けるべき作品
細田監督の認識は薄かったのですが、地上波で流れた「バケモノの子」がなかなか良かったので、衝動的に観たくなり家族で行きました。
とにかく細部まで丁寧に作りこまれている作品です。映像・音楽の良さはもちろん分かり易いのですが、家族の死を受け入れられない女子高生と父、片親家庭におけるワンオペが引き起こす虐待、SNSに拡散する無責任な誹謗中傷・まやかしの正義、高校生の淡い恋模様、など複数の社会的なテーマが絶妙に盛り込まれており、「サマーウォーズ」のような単なる娯楽作品には留まりません。
なぜレビューで低い評価を付ける方が目立つのか、その内容を読んでみると、監督の意図がうまく伝わっていないようです。そしてそれが、ご自分の読解力不足と考えず、説明不足ととらえているようですね。年代による差もあるのでしょうか。
単純で娯楽性要素の強い作品が万人に広く受けやすいですが、本作のように想像力や理解力を要求するもの(私は分かり易いと思いますが)も、素晴らしい作品は正当な評価を受けるべきです。
自分が気に入らないからと言って、この作品のレビューにボロカスコメントを書くのはどうかと思いますよ。そのような考えがSNSで拡散され主流となる世の中は恐ろしいです。まさにこの映画のテーマでもあるのですが。
それでも私以上に深く理解している方もたくさんいらっしゃり、レビューを拝見すると安心します。鈴が自分の行動を通じて、母親の気持ちの理解に至った瞬間の表現は圧巻でしたね。あえて付け加えるなら、私は二人の父親の気持ちに注目しました。
一人目は鈴の父親。突然愛する妻を亡くし、その後心を閉ざしてしまった娘と暮らす。辛かったでしょうね。不器用だが大切なことは理解している彼は、娘を信じて見守り続けました。終盤の役所さんのセリフ、他の情報を遮断した演出は見事です。
もう一人は恵の父親。こちらも妻を亡くし(詳細は不明:例えばこれを説明不足と非難する必要があるのか?)たあと、二人の息子(しかも一人は要特別支援)を育てている。対外的には評価され(?:報道写真があった)、「出来た父親」を演じていたが内情は違っている。子供たちに辛く当たるのは、自分でも間違っていることはわかっているのに、もう一杯一杯で変わることが出来ない、自己矛盾。しかし、そこに突如現れた鈴の毅然とした態度に、遂に我に返る。鈴を殴ろうとしても殴れない父親の葛藤を、繊細に表現した路上シーンは素晴らしかったですね。鈴は父親も救ったのです。
細田監督に興味を持ち、「未来のミライ」を観てみました。未熟な両親が二人の子供の育児を通じて成長していく作品ととらえました。子育て・家族の営みは、時を超えて脈々と受け継がれ、これからも続いていく、それをファンタジー風に表現しています。低評価のレビューが並びます。確かに娯楽性が乏しいですし、このテーマでは一般受けはしないでしょうね。でも「竜とそばかすの姫」を見た後では、ジワジワと感動が押し寄せてきます。ああ、細田監督は人間愛に溢れている人なんだ、頑張っている人を応援しているのだ、理不尽な誹謗中傷や、薄っぺらい正義感は苦手な人なのだ、と私は理解しました。
このような素晴らしい作品を世に送り出して頂いた、監督・スタッフの方々に深く感謝申し上げます。今後の活躍を期待しています。
知くんが可愛くてすごく感動的な作品‼︎
美しい映画で、とても感動しました
え?素晴らしかったけど?!
歌が秀逸
この映画のテーマは「守ること」
それにつきるのではないでしょうか。
ネット社会に生き、ストレスを抱える現代人が無くしてしまったもの、
それに気づかせてくれたので、Belle の最後の歌が人々の心に響いたのではないか。
そう思えてなりません。
歌がほんとに良かったです。
設定のささいな部分は、映画なので良いと思う。
あとからキャストを知りましたが、
合唱団が豪華メンバーでしたね。
サマーウォーズではなかった。
難しく考えすぎなんじゃない?
映画を観た余韻に浸りつつ、その余韻を共有したくレビューサイトを見てみると批評が多い?何で?思わず登録をしてレビューをば。
これは作品の品評ではなく、観た後にコーヒーでも飲みながら、こんな所が良かったよねと吐き出すような感想です。ネタバレを過分に含みます。
映画を見る前に主題歌のPVを観て、テンション上がる。
歌単独だと響いてこなくても映像と一緒だと印象も評価も上がる。
アニメや映画の歌は映像ありきで良くも悪くもなるし、逆に良い作品には良い歌や音楽は必須。
そういう意味でも映画館に足を運ぶ前から期待は高かった。
ストーリーは非常にシンプル。
幼少の頃にお母さんを亡くした鈴。お母さんは、増水で中洲に取り残された子供を助けようと川へと飛び込み、子供は助かるけど、結局自分は亡くなってしまう。
鈴は音楽が好きだけど、そのショックで歌う事ができなくなってしまう。
思いを吐き出そうと書き殴っても、それは形に、歌にならず。
でもUと出会って、もう一人の自分を手に入れることで、歌うことが出来るようになる。
その世界で、同じように傷ついたAsの竜と出会い、ひかれる。
あなたは誰?
これはこの映画の予告からも再三鈴が呟くメッセージ。
黎明期のMMO経験があるから共感する部分もあるのだろうか。匿名性の高いもう一つの世界で、気になる存在。ひかれるプレイヤーに、あなたは誰?と問いかけるのはそれほどおかしな事ではないように思える。
そして、ついには竜の存在突き止める。彼を救うために自らアンベイルを受け入れる事。それはありし日の川に飛び込んだ母の姿と重なって。ずっと、何故自分を残して見も知らぬ子供を救おうと思ったのかが理解できなくて、でも、その瞬間に、きっとそれは理屈ではないのだと理解する。
そしてそれは歌に乗って、多くの人々が共感をする。涙する。
あなたは誰?これはベル自身にも再三向けられた言葉でもある。彗星の如く現れた新進の歌姫。その正体は?
Uでは、誰もがあたらしい世界で新しい自分を手に入れる事が出来る。
アンベイル、強制的にアバターではなくその人の本来の姿、オリジンを暴くその光は、Uの世界でのもう一人の自分を殺す事でもあり、裁きでもある。
にも関わらず、その光を自ら受け入れた鈴の姿は、自らをかえりみず川に飛び込んだ母と重なる姿でもある。
そしてUの世界のベルは死すかと思われたが、結果として人々に受け入れられ、Uの世界にも受け入れられる事になる。
鯨は、Uの世界を管理するAIのもたらした演出だし、ベルの自己表現の一環でもあり能力でもある。
まぁその辺りの解釈は人それぞれだろうから置いとくとして、鈴が竜にひかれ、自分を顧みず救いたいと思い、自らアンベイルを受け入れる一連の流れはシンプルだし分かり易い。
そして、歌う事が鈴にとってかけがえのない自己表現であり、自分を曝け出して、それでも歌うその姿に共感し思わず涙が溢れる。
諸々の世界観の整合性や、竜をリアルで助けに行く所の妥当性の考察や、そうした一切合切が蛇足。脚本の作り込みが甘いと指摘もあるが、これ以上ディテールをごちゃごちゃにしても意味が無いよね。
古き良きアニメ、特にSFや特撮物を、リアリティーが無いと酷評する人が居る。それこそ、ドラえもんにリアリティーが無いと言い、キャプテン翼にそんなシュートを打てる奴はいないとダメ出しをする。それはナンセンスだ。
映画冒頭の鯨に乗って唄うベルの姿は、時系列だと本編の後だと考えられる。
多くの人々がベルのオリジンを目にして、冴えない、何処にでもいる女の子だと皆が知っている。それでも、ベルはUの世界で新たな自分を手に入れた、最も有名なAsの一人だと説明をされている。でも、それは仮初なんかじゃ無い。
Uとは、仮想現実の中で仮初の自分を手に入れる事ではなく、Uを通じてその人が秘めていた才能や能力を開花させるアプリである事。
それは、視聴者へ向けたメッセージとも取れる。
冒頭のUを説明するナビゲーションと、最後でもう一度繰り返されるUの説明。十分に伝わる内容ではなかったろうか。
あなたは誰?それは視聴者へと向けられたメッセージでもある。
映画のテンションとしては、冒頭のベルが歌うシーンがクライマックス。見終わった後に、もう一度あのシーンが見たいと思うほどには。
レコ直のランキングで1位を獲得し、サブスクでも一気にランキングをあげてるのは、きっと同じように映画を観た後に余韻に浸りたいと思う人がいっぱいいるからなのだろう。ある意味、レビューのポイント以上にこの映画の評価を見定めるバロメータになっている様に思える。
まぁ歌が好評を博したのに本編はイマイチだった作品もあるんだけどね。
そんなこんなで、主題歌を大音量でリピートしたくなる位には、この映画は良い映画です。
2022.9.24 追記。ホームスピーカーで家で試聴するも、劇場程の感動は得られず。やはり、大画面+高音質スピーカーに勝るものは無し。
美女と野獣のオマージュなので一連のストーリーの流れはわからなくも無いが、終盤の流れは仮想現実の世界でリアルを晒す事への動機付けがメインであって、そこに現実世界での妥当性を論ずるのはやはりナンセンスに感じる。
時系列としてはUの世界で有名になる⇨リアルを晒す⇨OP。OPではUの世界で最も成功した人の一人としてbellが紹介されている。
子供の頃母を亡くし唄う事が出来なくなった鈴が、仮想世界で唄を取り戻す話だと思うのだが。
母の心情を理解し過去を乗り越えるため、Uの世界のbellのアンベイルという擬似的な死を乗り越える為の動機付けとして兄弟を救う話があるのであって、それ以外は蛇足でしかなく、なしては映画と言う尺の中ではこれ以上掘り下げるのも難しい。動機付けとしてはやや弱い事は否めないが、現実的にあり得ないと言ってる方達は単に読解力が無いだけの様に思える。
普普通に良い映画でした
ひさびさの細田作品。
未来の二の舞かなぁと心配しましたがとても良かった。
映像美、音楽などとても良かったし、敢えて美女と野獣のような演出を入れつつも全く違った展開にするなど、解りやすくも期待を裏切るような展開などを効果的に取り入れていて見所が多かった。
とても良かったです!
【考察】忍君にはお母さんが乗り移っている!
◆ ストーリー
内向的な女子高生鈴は友人の勧めでスマホアプリ<U>に登録する。<U>は登録者数50億人を超える巨大SNSで、会員たちはバーチャル空間でアバター(仮の姿)で交流を楽しんでいます。
<U> 内での鈴は歌姫ベルとなり一躍人気者となります。バーチャル空間での初ライブ中に突如竜と言う名の獣人が乱入してきます。彼はネット世界で言う荒らし行為を働いていてバーチャル空間では暴力行為を振るい、暴れまわっています。
なぜ竜は暴力的なのか、なぜ竜は時折寂しそうな眼をするのか、そんな竜をベル(鈴)は放っておけずそのあとを追っていきます・・・。
◆ 本当に恐ろしいスマホ依存
子供は父性と母性の両方の影響を受けて育ちます。鈴には母親がいません。幼い頃に川の事故で亡くなりました。鈴の父親は物語中父親らしいところが一つもありません(影が薄く、出てきても同じセリフしか言わない)。ですから鈴が内向的に育つのも不思議ではありません。
(※もう一つ父性・母性の影響の例を挙げると、エヴァンゲリオンのシンジ君。彼も母親を早くに亡くしていますし、父親も厳格過ぎます。その影響を受けて彼も内向的な性格に育ちました。)
性格が内向的で塞ぎ込んでいると、自分の枠組みから中々抜け出すことが出来ずに他者との関りを失い、どんどん自己肯定感が低くなっていきます。
私は鈴も自己肯定感が低い子だと思います。両親の影響に加えて <U> 登録初日にベル(鈴)の歌がバズってフォロワー数が爆増しますが、鈴は「たくさんの人が自分を批判している!」と大慌てします。大きな成功体験よりも、ネガティブな出来事にフォーカスするのは自己肯定感が低い証拠です。
自己肯定感が低いと、お酒、ギャンブル、ゲーム、スマホと言った簡単に手に入る刺激や快楽にドップリハマってしまい、そこから中々抜け出せなくなります。
家に閉じこもってゲームばかりしている自己肯定感が低い人がある日突然外の世界に出て「よし!就職するか!」とはなりませんからね。
私は鈴が歌がバズって、フォロワー数が爆増し、ファンの承認欲求などによる “一時的な” 興奮・快感・熱狂 ―― いわゆるドーパミン的幸福の中毒になり、<U>から抜け出せなくなっていく・・・・という展開になると思っていたのですが、実際はそんな展開にならなりませんでした。これには全く予想を裏切られました。
◆ つながり・愛による幸福=オキシトシン的幸福
鈴の周囲にはいつも人がいます。親友でありよき理解者のヒロちゃんや、所属している地域の歌唱サークルのマダム達、そして何かと気にかけてくれるイケメン男子忍君。
人間はリアルに人とつながっていると幸福を感じます。この時脳内からはオキシトシンという物質が分泌されています。友情による結びつきや、地域コミュニティに所属している帰属意識によりオキシトシンが分泌されるのです。
ギャンブル、お酒、スマホ、ゲームなどのドーパミン的幸福は幸福感が直ぐに切れてしまいます。一方でオキシトシン的幸福は低減しません。例えば、去年政府から特別定額給付金として10万円貰えるというニュースが流れた時や実際に貰えた時は興奮して喜んだものですが、いまだにあの時の10万円うれぴ~~~~~~~!!!!!とその幸福感が持続してる人はいませんよね?(むしろ「おかわりはまだか!」ともっと!もっと!の状態になっている人もいると思います。)
オキシトシン的幸福は低減しません。オキシトシンは赤ちゃんを抱っこしている時などにも分泌されます。例えば10日間連続で赤ちゃんを抱っこしても赤ちゃんはかわいいです。11日目に突然「赤ちゃんキッッモ!!!」とはなりません。
私は人とのリアルな繋がり、オキシトシン的幸福が鈴(ベル)の精神を健全に保っていたのだと思います。
◆ イチ推し!忍君!
忍君とは鈴のクラスメートで、学校中の人気者!イケメン!女子の憧れ!スポーツ万能!の男子です。しかし私は彼の魅力はそんなところではないと思っています。
忍君は何かと鈴のことを観察していて、微妙な変化に気づき「何かあった?何かあったなら言ってよ」と気にかけて声を掛けてくれます。多くの世の男性はこの辺り鈍感で観察眼がありません。(よく言う恋人が髪を切っているのに気づかないというやつです。)
学校イチのヒロイン、ルカちゃんも忍君を「よく気づくお母さんみたいだね」と彼を評します。
また、忍君は鈴がベルであることをいち早く見抜きます。男性でありながら、この観察眼の持ち主である所が彼の最大の魅力なのです!
さらに物語の最後で難事件が解決して、少し大人になった鈴に忍君はこう言います。
「これでもう鈴のことを見守らなくてよくなった、これからは対等に付き合えるな。」
2人はまだ友達同士の関係で恋愛関係には発展していません。このタイミングでこのセリフは暗に、
「懸案事項も無くなったことだし、僕は君に安心した。これからは恋愛対象として踏み込んでいくからね。」
と言っているように聞こえます。もうね、キュンッッッッッッッッッッッッッッッキュンッッッッッッです!!!天才です!!!巧です!!!策士です!!!!!!!!!!!!エロいです!!!!!(?)
◆ 大人はアテにならない
鈴の父親は影が薄く、出てきても同じセリフしか吐きません。地域の合唱サークルのマダム達は鈴に「幸せってなに?」と問われるとみんな「えっと、えっと・・・!」と慌てふためくだけで閉口してしまいます。サークル内で一番年長者のお婆さんも「この年になっても幸せなんて分からないわ」と穏やかに答えます。(ここめちゃくちゃ意外でしたね。)
物語最大の山場となる、鈴が一人で高知から東京の見知らぬ子供を救けに行くシーン。ここはかなりネット上でも賛否があるところですが、影の薄い父親が娘を信じて送り出すのは最大の功績だったと思います(現実的であったかは置いといて)。父性とは規律、規範を示すなどの他に「断ち切る」ものですからね。これが機能しないと子は地元や家にへばりつくようになってしまいます。(もし仮に鈴の父親が黙って飛び出して行った鈴に憤慨して「子供のお前のすることじゃない!!今すぐ戻ってこい!!」なんて展開になったら・・・恐ろしい事になっていたでしょうね。)
◆ 人とのリアルな繋がり
映画作品に置いて繰り返されるセリフは重要なキーワードとなります。物語の冒頭で巨大SNS <U> の広告コピー「現実はやり直せませんが、あなたも <U> でもう一度やり直してみませんか?」というセリフが作品中3度は出てきます。
しかしながら、<U> 内で人生をもう一度やり直すことが出来た!というようなシーンは一度もありません。重要なキーワードに見せかけたミスリードなのか、あるいは無機質な機械音声のそれは不気味な悪魔のささやきかもしれません。物語の比重もバーチャル空間での内容よりはリアルな繋がりの方に重きが置かれています。
物語最大のトラブルも人とのリアルな繋がりによって乗り越えていきます。ここがこの作品の肝だったように思います。ご時世的に我々の日常生活はどんどん人とのリアルな繋がりは薄くなっていく一方で、ネットの方が重くなりつつあります。ですが、ここで、今一度、リアルの繋がり、その大切さを見直す時だと私は思いました。
※ 今回の感想は下記の書籍で読んで得た知識をもとに書きました。
『父滅の刃』『精神科医が見つけた3つの幸福』『察しない男説明しない女』
悶絶するほどにダサい90分を耐えた後にやってくる地に足が着いた展開でギリギリセーフ!夥しい協賛が浴びせる打ち水に夏を感じる高知県版バチモン『美女と野獣』
舞台は近未来。高知県いの町在住のすずは父と二人暮らしの高校生。物心ついた頃から歌が大好きな女の子だったが幼い頃に母を亡くしたことで歌うことが出来なくなり、親友のヒロ以外には父親にさえ心を閉ざしていた。現実に何ら希望を抱くことが出来ないすずだったが、ヒロの誘いで全世界で50億人以上が参加しているという仮想世界<U>に、“ベル”として足を踏み入れる。<U>の中でなら歌えることを知ったすずの歌声はヒロのプロデュースで広く知られるようになり瞬く間に世界中に知られる存在となる。そして満を辞して企画されたベルのライブパフォーマンスが全世界のファンが集まった<U>の特設スペースで始まろうとしたその時、会場内に不審な人物“竜”が自警集団ジャスティスに追われて乱入、イベントが中断されてしまう。背中に痛々しい傷を持った“竜”の姿が気になって仕方がないベルは手探りで“竜”の後を追うが・・・。
まず気になったのはサウンドトラックの音に立体感がかけらもないこと。仮想世界が主な舞台なのに空間的な広がりが音で感じられないのは大きなマイナス。<U>のビジュアルも既視感しかないもので、地平が存在しないことで独自感を出したつもりかも知れませんが『スーパーマリオギャラクシー』みたいな箱庭感しかない。だいたい50億というユーザーが跋扈する空間の規模感がちゃんと咀嚼されていないからせいぜい大宮駅周辺くらいのスケール感しか感じられない。トラウマで歌が歌えなくなった主人公の作品としては先に『心が叫びたがってるんだ』がありますが、歌おうとすると嘔吐してしまうほどに深く断ち難いトラウマから抜け出すための通過儀礼が本作にはごっそり欠けているので、何にもない閉鎖的な田舎に歌が壮大なカタルシスをもたらした『心が〜』に対して、こちらでは歌が何にも表現できていないことに絶句しました。あとこれはダメな邦画が陥る悪いクセですが、安物のファンタジーほど生まれつきの才能等都合のいいデフォルト設定に頼ってロケットスタートを切るので作ってる側が期待しているほどのドラマは観客には伝わらない。それは100%演出側のチョンボですが、そういう袋小路に入っていることの原因を自らに求めないからとにかく演出意図を別の形で説明しようとする。その結果ナラティブな台詞だらけになりせっかくの映像もサウンドもただの添え物になる。壮絶な手間をかけて製作されるアニメでそれをやってしまったら元も子もない。だいたいベルがBellじゃなくてBelleになっていることの意味は冒頭のタイトルロールを見た瞬間に観客に解ること、イチイチ説明されるとバカにしてんのか、コラ?と襟首の一つ二つ掴みたくなります。
そんなこんなでざっと90分間は一体私は1600円(ユナイテッドシネマの会員デーだったのでIMAXなのにこの程度のダメージで済みました)も払って何という幼稚なものを見せられてるんだろうと自問するほどに噴飯物の映像とサウンドとセリフを霧雨のように浴びていたのですが、ここから先は一転地に足がついた展開、というか小学生には解らないんじゃないかというような辛辣な展開になってまあ元は取ったかな程度のカタルシスは得られました。しかしそれだって決して褒められたものではなく、そんな偶然あるわけねえだろ?とかシンゴジラかよ!とかツッコミが腹の底から湧いてくるのをギリギリ堪えたから感じられたもの。何だか聖地巡礼を期待しているかのような目配せが押し付けがましいなと思ったらエンドロールに川村元気の名前を見つけてベルの歌声ではなくAdoの歌声が脳内で木霊しました。
だいたいそもそもあからさまに『美女と野獣』をやりたいというのをバカみたいに前面に出していたのに封切りから一週間経ったところでコロッとポスタービジュアルを変えるという優柔不断さにも眩暈がしました。山ほど協賛会社を集めてきてリスクを打ち水のように仮想世界にばら撒いた大作アニメですが正直IMAXで観る価値はこれっぽっちもないので、そこは全部『ブラック・ウィドウ』に譲って欲しかったというのが正直な感想、私は一応満足はしましたが『サマーウォーズ』が大好きな人には怒られるやつだと思います。
今作のテーマ
この作品の一番のテーマは『母の死を乗り越えること』だと思います。
「なぜ母は自分をおいてまで見知らぬ子を助けて死んでしまったのか」という問いに答えを見つけられず、母を止めてくれなかった父親への感情も消化できずにいる鈴。大好きだった歌も母の想い出が蘇ってきてしまい歌えない。
そんな時に親友のヒロから勧められた仮想世界U。母への想いを“歌”という形で解放し、人気が爆発する。そして竜と出会い、集団の批難を意に介さない(ように見える)、自分にはない意思の強さに興味を惹かれ、その奥底に苦しみがあることを知り共感する。
鈴は「口では心配そうな振りをしていても、本当に助けにきてはくれない」という恵(竜)の言葉をうけて仮想現実から本当の自分をさらけ出し、一人で現実世界の恵を助けに行くことを決心する。小さい頃から鈴を見守っている忍やヒロ、合唱団、鈴の父は危険を承知しながらもその想いを汲み取って見送る。そして恵の父親との対峙を通して、鈴は母の気持ちに触れ、母の死に向き合えるようになる。
賛否が分かれているのはミステリー要素かと思います。母が子どもを助けに行った理由はもちろん、小さい頃の鈴の歌について具体的に示されないので、なぜ忍や合唱団が‘’BELL‘’であることを理解したかがわからない。また、合唱団と母、そして合唱団と父との信頼関係も終盤になってさりげなく示される。母への気持ち、竜への気持ちも事象ではなく歌によって表現されている。
それに50億のアバターから見つけるのも、それが日本人であることも出来すぎではあるでしょう。ただ、その奇跡も含めて一つの映画作品として楽しむことができました。
最後に恵と父親のその後ですが、私は警察への通報などはしていないと思います。「本当に助けに来てくれる人がいる」ことを示すことが恵にはこれから父と向き合う上で大きな助けになりますし、恵の父親がおびえていたのは恵を守りぬくことを決意した鈴の揺るがない覚悟を感じ取ったからだと思います。
この作品を映画館で観られて本当によかった。
今作のテーマと考えられた違和感
感想としては圧巻の音楽と映像美は間違いありません。
物語としては、人の本性が映し出されるネット上のUと、青春を通して、母の死を乗り越え成長する主人公すずの姿をベースに、二つの「欠けた」家族から映し出される父の在り方、家族の在り方、家族が残したものを題材によく作り込まれた良い作品だと思います。想像以上でした。少しテンポや爽快感が良ければ満点。と思いましたが監督の思惑にやられたのも含め⭐︎4.5から⭐︎5に修正しました。
すずの成長という物語とは別に、本筋といっても良い物語が紐解かれていきます。中盤、終盤から明らかにされるそれらを、一つ一つ紐解くと本当の物語が見えてくかもしれませんし、見終わった後に改めて紐解く事もこの映画の見どころだと思います。
まず大きく象徴されるのがすずとケイのふたつの家族です。
2人は全く異なるようで母が「欠けた」という共通点があります。母を失ってから二つの家族は大きく変化していったのでしょう。
決して恵まれたとは言えない環境のすずと、裕福で恵まれたケイ(恵)ですが、人の本質が映し出されるUにおいては美しく歌姫として皆から支持されるすずと、醜く忌み嫌われる竜であるケイを形作ることになったのは何だったのか。
その違いは亡くなった母へ想いであり、残された父の姿や周りの人たちだったのではないでしょうか。
大好きだった亡き母を否定できず、葛藤しつづけながらも心の中で成長し続けてきたすずと、そんなすずとコミュニケーションがとれずとも見守り続けてきたすずの父や周りの人達。
母の写真は破られ、父は子供たちの成長を支配下におこうとして抑圧された気持ちが歪に成長し続けてしまったケイの家族。
小骨のような違和感が多く、考え出すと、なるほどと答えに行き着きます。
対比をされる場面が多いためそれぞれの違いをまとめておきます。
1.居住環境
廃線予定バスの先にあるような田舎に住みとても裕福とは言えないすず
都心のしかも高級住宅街に住み裕福な暮らしと言えるケイ
2.父
すずの父はうまくすずとコミュニケーションを取れずにいますが、朝には学校へ遅れないよう声をかけ、毎日食べないと分かっていながら夕飯をすずにすすめてきます。またそれを食べないすずを叱ることはしませんが、終盤ではすずが夕飯を食べるというと好物のカツオのタタキを作ろうといいすずを見守り続けます。
ケイの父は社会的にみても地位のありそうな人物です。ルールを重んじ、父自身が家のルールだと語っています。
映画前半ではカメラに対し母が欠けても家族3人元気で過ごしていますと語る一方で、後半ではモノを壊し、威嚇し、ケイたちの間違いを叱責します。
3.亡き母への想い
映画の中ですずの母は濁流の中洲に取り残された子供を助けにいき亡くなってしまいます。
大好きだった母が残してくれた歌を続け、本人に自覚は無いかもしれませんが母と同じように片足を失った犬を助ける優しい気持ちを持っています。冒頭の「欠けた」マグカップを大事につかうすずの姿はよくそれを表していると思います。
一方で何故助けにいってしまったのかと、後悔や葛藤、否定的気持ちが心を引き裂いているように感じられますが、ケイを助ける事で迷いは無くなりすずは大きな成長を見せる事となります。
ケイの母は語られる場面は少ないですが、誰が割ったか分かりませんが母の顔から割られた写真立てが描写されており、母への否定的な描写がされています。
ここからは蛇足です。もしかしたらそうなのかなと感じたので記載です。
表情からして、単にケイの父は心の弱い人というだけかもしれません。
最後のケイたちを守るすずをケイの父が力づくで振り向かせる場面。
ケイの父はもしかしたらUの世界ですずの本当の姿を見たのかもしれません。もしかしたら隊長さん自身だったのかもしれません。だから振り向かせた時、繋がってしまったのかもしれません。
目の前にいるのがベルであり、ベルが竜を助けようとしていた事。そして2人が目の前にいる理由と、これまで敵として追ってきた相手が息子だったことに。
振り上げた拳を息子を救ってくれた相手へ向けれなかったのかもしれません。息子たちへの愛情はちゃんとあって、最初は息子たちを正しく育てようとしていたのかもしれませんが、仕事や発達障害のある息子への歪な支配へ変化してしまったのかもしれません。
それらをすべて処理できず腰を抜かし逃げ出したのでしょうか。まだそれならケイが救われるかもしれないし、良いなと感じます。
観るか迷ったけれど、すっごく良かった!!
先程観てきました。
低評価が目立ち、そんなにつまらないのかと思いましたが
最初の「U」が観れればいいくらいな気持ちで行きました。結果とても良かったです。
淡い青春、好きな歌、もう一つの世界、現実問題。
最後は確かにご都合主義で終わりましたが「助ける」意味を感じました。
私自身ネットで助けられたり、助けられなかったことがあるので、
映画と気持ちがリンクしました。
主人公鈴の心の成長も上手く描かれていたと思います。
主題歌が気になるなら行ってみた方がいいです。私はダメ元で行きました。
「美女と野獣」に似てるシーンは笑いましたが。
はあ、私もベルみたいになりたいなあ...。
ちなみに細田守監督の作品を観たのは初めてなので参考にならなかったらごめんなさい。
観てよかった。
SNSという顔が見えない世界だからこそ、簡単に流される大衆の意見を表現した皮肉さと、それ以上に人と繋がることができる世界、顔を知らない通しであっても生まれる人の想いは美しいことを描いた素敵な作品でした。仮想空間という完全な二次元の世界を描いたけれど、物語は全てリアル。だからこそ見る人は登場する様々なキャクターに自分を投影して見ることができるとてもリアリティが高い作品。
鯨のシーン、歌唱シーン、どれも臨場感溢れる映像で、見ていてとてもワクワクしたし、心が震えました。これはアニメーション映画だから表現出来ることであって、改めてアニメは良いなと思いました。
個人的なハイライトとしては、鈴が東京に向かうバスの中でのお父さんとのやりとり。「君はそれでも優しい子に育った。その優しさを伝えてあげなさい。」余計なBGMは一切使わず、お父さんの声だけの演出。温かく勇気つけてくれる心に沁みるようなお父さんの声がとても良いなぁと思いましたが、エンドロールで役所広司さんだと知り、納得でした。
震えながらも歌う鈴の姿に自分も本当に勇気がもらえました。観てよかった。家に帰ったら、ゆっくりパンフレットを読みながら余韻に浸ろうと思います。
エンタメ映画を超克した細田作品
『竜とそばかすの姫』は社会性とエンタメ性を両立させた、
細田作品の新しい金字塔です。
前作『ミライの未来』は細田監督の「描きたいもの」を描いている印象こそあれ、
個人的にも、そして世間的にも、エンタメ性がイマイチ…
という評価を受けていた側面があります。
前作の反省を生かすべく、今作『竜とそばかすの姫』は意識的に
エンタメとしての映画、を発信してきたように感じました。
世界中の人が集う仮想空間、主人公が住む田舎の風景。
そのギャップを全面に打ち出した本作の予告は、観るものに
『サマーウォーズ』の存在を否応なく意識させるものでした。
エンタメの傑作『サマーウィーズ』という下地を明示的に使用することで、
「原点回帰」を印象付ける狙いがあるようで。
今回はオチでどういうこと?ってならないよ、だから
安心して観に来ていいよ、というメッセージにも感じていたのです。
そんな見立てをしていたからこそ、私は大いに裏切られることになりました。
細田監督は、エンタメへの回帰を果たしながら、それでいてエンタメを超克した作品を
作り上げてきました。
それが社会性との両立です。
本作は物語の大きなファクターにある「深刻な社会問題」を据えています。
これは細田監督作品にとって、著しい転換と言って差し支えないでしょう。
というのも、批判を承知で申し上げますと、
今までの細田作品では作品の「社会性」はそこまで強く
意識して描写されてこなかった側面があると思うのです。
正確に言えば、社会性を作品内に織り込んでいく手法を確立できていない、
という感じがしていました。
象徴的なのが、『バケモノの子』における役所や、本来の父の描写。
行政も家庭も(そして社会も)作品内では大した障壁として描写されません。
バケモノの世界で育った蓮が、長らく離れていた人間界に戻ってくる上での
困難はほとんど描写されず(文字の読解くらい?)
拍子抜けするほど簡単に、現代日本社会に適応し、周りもそれを受容した。
そこに日本が抱える社会的包摂の問題、周縁化された個人の直面する現実を
描く選択をしなかったことは、ご都合主義的だと感じる向きもありました。
私自身、エンタメを追求する細田作品には「社会」の描写に苦心しているように
感じてたのは確かです。
だからこそ、本作で細田監督が真正面から社会問題を描いたことには
大きな変化を感じました。
そして何より称賛したいのが、本作が
エンタメ映画としてもしっかり成立しているというところです。
誰一人、脚本に殺されることがなかった。
ちゃんと面白いです。
社会問題を扱っておきながら、説教臭さを感じさせない、
それどころか爽やかさを感じさせるラスト。
交流を深めた学生たちとそれを見守る地域の方々の大団円。
月並みな表現ですが感動しました。
補足:
前作『ミライの未来』はそう言った意味で、社会問題:子育ての問題と向き合おうと葛藤した(結果、エンタメ性が犠牲になってしまった)過渡期的な作品として今後は位置づけられていくことになるかもしれませんね。
前作からの反動で、エンタメ一辺倒の仕上がりとならないところに凄みがあります。
ただ、予告から『サマーウォーズ』的なエンタメ映画を期待して観に行った方は
その社会性の強さに意表を突かれる作品かもしれません。
友人がこの映画に対して一言「意外と重すぎる」と評していたのが印象的でした。
興行的な成功を見込んでストレスの少ない娯楽を提供する、
という選択肢もあり得たでしょうが、そこで単純に観客に迎合しなかったところに
細田監督の真価を見出すことが出来ると思います。
アニメオタク達の声に耳を貸す必要はない
まるでディズニー映画を見てるようでした。
素晴らしい歌とストーリー
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