「現実世界はやり直せない。 Uの世界ではやり直せる。」竜とそばかすの姫 はらしさんの映画レビュー(感想・評価)
現実世界はやり直せない。 Uの世界ではやり直せる。
Uの世界で自己実現を果たし、現実世界をうまく生きられるようになる物語。
誰しもが抱える、理想と現実の乖離。
鈴の母は、人助けに川に飛び込んみ、川に流されて亡くなってしまう。その母との思い出だった音楽(DTM)に没頭した鈴は、次第に歌を好きになっていく。
歌いたい。けれども自信のない鈴は、上手く歌うことができない。
そこに登場する「U」の世界。
「U」の世界・空間において、利用者は、感覚にまでネットに接続された「As」として存在する。
鈴は、UにおいてBelleと称し、潜在的な音楽と歌の才能を発揮して、歌姫となる。
〜
数億のユーザーが見るステージに、ジャスティスに追われて乱入した竜に対し、いきなり「あなたは誰?」と問うことへの疑問が散見されます。
竜は、ステージに乱入した際、他のAsの説明により、闘技場でのファイトスタイルが常軌を逸しており、批判されている存在だと説明されます。
私としてはこれは、現実で虐待されている竜が、Uの世界において決して負けない自分を自己実現しているからと思われました。(だからこそ、鈴に会えた時の決意の言葉があのようなものだったのでしょう)
自己実現が可能なUの空間において、その背景を知らないBelleからすれば、暴れ回る竜の行動は理解できません。(なぜUで暴れるの?あなたはどんな現実を生きていて、何を望んでいるの?)と思ったのでしょう、そんな思いを包括した言葉が「あなたは誰?」という言葉になったのかもしれません。(曲解ですかね)
〜
ストーリーや個別のシーンが発するメッセージに疑問点が多くあるのは強く頷けます。その一方で、
感覚まで接続するデバイスの進化やインターネットの未来へのワクワク感
やり直しの効かない現実へのアンサーとしての「U」の世界と、それがもたらした現実世界への肯定感
これらは今の私にとって心に残るものでした。
…
音楽と映像が素晴らしいので映画館で観る価値ありだと思います。
中村佳穂のMVという意見もありましたが、音楽がBelleで出ている点、彼女のアーティストとしての活動の方向性・音楽性との違いがあるのかなと思いました。
Belleという別の軸での音楽活動はあるのかな?期待してます。