「いそうな人、ありそうな設定、あってほしい展開」竜とそばかすの姫 サブレさんの映画レビュー(感想・評価)
いそうな人、ありそうな設定、あってほしい展開
主人公の鈴=Belleが仮想現実「U」内で歌うとき、常に画面は華やいでいた。美しかった。特に終盤、鈴が歌い、皆がそれに答えるシーンでは、光の津波に圧倒されてがらにもなく感激してしまった。
ただ…全体を通して、ただ感じたこと。なんか、古い?
この映画は細田守監督の極地とのことだが、目新しい人物像も設定も展開も何もなかった。主人公は(実際にいるかはともかく)いかにもどこかに『いそう』な少女。彼女を取り巻く友人、同級生もいかにもという感じ。合唱マダムの存在にはちょっと驚いたが、正直、いかにも昔のアニメに出てきそうなご年配婦人だった。
仮想現実「U」もサマーウォーズのころからなんら変わっていない。ただ、単なるバーチャル世界というよりもSNSチックになったことで、匿名の大勢が登場して、現実味は増したかもしれない。とはいっても、「ネットの悪意」(あるいは善意も?)を強調するきらいがあったので、あまり気持ちのいい描写ではなかった。しかも、別の配信者が自分のナワバリを守るために鈴をけなして見せたり、正義の執行者気取りが鈴を脅して見せたり…悪意の描写がちょっと古いのでは。
ストーリーも、主人公たちの善なる思いが結実する形で進んでいる。ゆえに意外性がなく、スムーズに頭に入ってきた。こうなるだろう、なってほしい、という主人公たちの思いをあっさり先取りできる。よく言えば、気持ちがシンクロした、共感したということだが。
その一方で、登場人物が何をどう考えて慟哭や決断をしていたのかは、ほとんどわからなかった。鈴がなぜ竜に惹かれたのか。なぜ竜を守ってあげたいと感じたのか。そもそもなぜ皆が竜を特定しようとしているのか。
鈴はとても優しい女の子、竜は事情があって他人と触れ合えない人。と前提に置けばスムーズに共感できるのだが…ありふれた設定と観客の思い込みに立脚した作品でいいのか。