「国産アニメ映画の頂点、冒頭のみさえの描写から涙止まらず」映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 南野コミチさんの映画レビュー(感想・評価)
国産アニメ映画の頂点、冒頭のみさえの描写から涙止まらず
クレしん映画に関しては、カンフーボーイズ以降の2作品は矢島晶子女史の引退により離れていました。
今回劇場に足を運んだのは、ゲーム『クレヨンしんちゃん オラと博士の夏休み』で小林由美子女史のしんのすけの演技に触れたからです。違和感のない、矢島晶子女史へのリスペクトを感じる演技に感服しました。
クレしん映画といえば初期の『ヘンダーランド』や『戦国大合戦』、『ロボとーちゃん』等の大傑作もあれば、特に『カスカベボーイズ』以降、(個人的には)う〜んと首を捻らずにはいられないような出来の作品もあり、当たり外れが激しい印象があります。
近年のものでも『オラの引っ越し物語』以降の『ユメミーワールド』や『宇宙人シリリ』などは個人的には「う〜ん」側の感想を持っています。
しかし、今回、この『天カス学園』は大成功だと思います。
実に短いアバンタイトルの後、しんのすけが一週間の全寮制の学校へ旅立つシーンで、みさえがしんのすけとの別れを惜しむ姿、不覚にも開始5分ほどで涙してしまいました。みさえがしんのすけをギュッと抱きしめるシーンで「この脚本家はクレヨンしんちゃんをわかっている」と不躾ながら思ってしまいました。
脚本担当の「うえのきみこ」先生は『オラと引っ越し物語』の人でもあります。あの映画でしんのすけがカスカベ防衛隊の面々と別れたのと対照的に、今回は冒頭で両親たちとお別れするのです。
脚本担当が同じなだけあり、『天カス学園』は『引っ越し物語』と似たストーリーラインを辿っていると感じました。
新天地で、
たくさんのオリジナルキャラクターが出現し、
一つの問題に対してぶつかり、
最後はオールスターでその問題を解決する。
実に分かりやすく盛り上がる王道のストーリーラインだと思います。子どもも大人も楽しめるファミリー映画として実に正しい方針だと思います。
この映画を見て思い出したのはピクサーの名作『ウォーリー』です。
天カス学園はAIによって合理的な教育を与えられる閉鎖空間として描かれています。そこにしんのすけが異物としてやってくるのです。
エリートとは何か、友情とは何か、青春とは何か
天カス学園に関わる理事長、教師、生徒たち、風間くんやカスカベ防衛隊のみんなが、
天カス学園の目指す「エリート」とは真逆の「おバカ」なしんのすけによって物語中変化していくのです。
これは『ウォーリー』の中で、何不自由ない宇宙船で暮らしている人間たちが、ウォーリーの出現により変化していくのと実に似ています。
AIの考える合理的生き方を超越した「おバカ」な生き方を肯定する作品です。
奇しくも『ウォーリー』も『天カス』もクライマックスは実に泥臭い非合理的なものです。しかし、それがいい。
『ウォーリー』も『天カス学園』も最後は希望のある終わり方をします。しかし、ディストピア(天カス学園や宇宙船)から抜け出た外が、安全地帯だという保証はどこにもありません。AIから与えられるエリート教育に浸った方が楽かもしれないし、宇宙船の中にいた方が食事の心配も何もしなくてよかったかもしれない。「いつかバラバラになってしまうかもしれない」と物語の中でも風間くんは何度も未来の心配をしています。
それでもしんのすけは「オラ、今しか分からないゾ」と力強く宣言します。
泥臭い「おバカ」がAIの与える合理性を乗り越える熱いクライマックスです。涙が止まりませんでした。
私たちに、自分の両足で立って生きることを教えてくれるそんな良作です。
近年、細田守作品等、海外受けを狙ったアニメ映画が量産されています。
それ自体を否定するつもりはありませんが、海外受けを狙いすぎるあまりに映像美などのディティールにこだわりすぎ、純粋な「面白さ」を無視しているような作品も多く見受けられます。
その点、クレしん映画は海外受けなど一切狙っていない点が個人的にはとても好感度が高いです。
これからもぜひクレしん映画はこの路線を守っていってほしいと強く思います。次回作もぜひ劇場で観たいと思います。