「何を見させられてるのだ?」ファブリック Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
何を見させられてるのだ?
観た後にどっと疲れが込み上げて1時間程寝てしまった。人に危害を加える赤いドレスに取り憑かれた人々の恐怖を描いたホラー作品なのだが、完全にアート系作品であり、観る人を選ぶかなりのレベルな作品であった。私は比較的アート系作品も楽しめるタイプなのだが、正直これは微妙だと感じた。2時間の本編で2つの物語があり、両方とも共通の販売店を通してドレスを手に入れている。この販売店がキーパーソン的役割を果たしている訳だが、ゴスロリ系衣装の社員が閉店後にマネキンにマッサージをし、何故か陰毛の生えた局部から流れた血をイヤらしく舐めまわし、それを見たオーナーの老人が自慰行為をして射精するという書くのも恥ずかしい誰得なサービスショットがあったり、その店のセールを宣伝する不快なテレビCMが流れたり、雑誌や街中の人々のファッションがクローズアップして描写され、最後にマネキンの手が「バンッ!!」て画面を叩くという謎演出が炸裂するのだ。結局、そのドレスにどんな因縁があり、明らかにキ〇ガイな販売店の謎などは明確に描かれないという、アート系作品の中でも特にスッキリ出来ない作品である。だが、 かなり世の中に対する皮肉を込めた作品であり、幾多あるホラー作品への深化、オマージュ精神の強さが分かる、珍しい作品かもしれない。
まずあの販売店は、「サスペリア」のバレエ財団の在り方とカブる。本作でその社員が吸血鬼とは言われていないが、マネキンの局部から流れる血を舐めるシーン等の不可解な部分でそう考えることも出来る。ただ単に現代社会の「欲」を具現化した存在なのか、私の脳みそでは理解に苦しむ限りである。その店のテレビCM放送後に店舗に押し寄せる大量の客の描写も、メディアの過小・過大評価による情報操作により、消費社会が大きく変動するという事の皮肉なのだろう。それら描写が本編に分かり易く関わることは無いため、何も理解できず気づけば終わっている位の分かりにくさである。アート系で攻めるのは問題ないが、筋道を1本立ててくれないと追いつくので精一杯なのだ。分かりにくさ故にもう一度鑑賞する・・・という気にはなれないが、第2部の洗濯機の修理工の主人公の夫が、洗濯機の壊れた理由を淡々と話し、聞いている人が寄り目になって意識が飛ぶという演出が面白い。確かに、あの様な時に話を理解して聞いている人はどれだけいるのだろうか。第1部、第2部共に本作には洗濯機が良く出てくるのだが、とにかく酷い目に遭うため、そこは大きな注目ポイントである。