劇場公開日 2022年1月21日

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「秘められた強いメッセージがある」TUBE チューブ 死の脱出 R41さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5秘められた強いメッセージがある

2024年7月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

この作品はSFサイコスリラーに分類されるようだ。
あの「キューブ」に「心の檻」と「宇宙人的介入」を合わせた作品。
「チューブ」には映画「キューブ」のような罠が仕込まれていて、主人公リザに対しカウントダウンによってそこから否応なしに脱出するように促される。
さて、
謎の男「アダム」
彼の車に乗ったことでこの「ゲーム」が始まったと誰もが思う。
しかしアダムもこのゲームに参加させられていたことで、リザはパニックになりながら余計に状況判断が困難になる。
この作品が描いているのはリザの「心」だろう。
娘を自分の不注意で亡くしたことが心に深く傷をつけ、死にたくないがどうしても娘に会いたいと強く願っている。
連続殺人鬼のアダムは、不要な人類の象徴だろう。
宇宙人的存在は、神あるいは宇宙の法則的象徴で、もしかしたら人類を滅ぼしにやってきた「地球が静止する日」的な役目を担っていたのかもしれない。
リザが最後にいた楽園的な場所は、地球ではない。
あるいは地球ごと滅ぼされたのかもしれない。
リザには帰る場所はなく、娘ニナが言ったようにここで「生きなければ」ならないのだろう。
この作品は難解だ。
だから妄想する。
宇宙人が地球を滅ぼす際、その決め手となったのがアダムによる連続殺人事件だ。
さらにアダムは車に乗せたリザを殺害しようとした。
事実リザは車の中で何度も刺され、車から滑り落ちるように地面に仰向けになる。
星空が見え、その一つが大きくなっていくと同時に気が遠くなった。
気が付いた場所がチューブの中だった。
リザの治療には時間が必要だったのだろう。
宇宙人が即座にアダムを確保し、チューブに入れた。
彼も何度もふりだしに戻されながらもなんとか生き延びていた。
彼の伸び切った髪の毛が時間を表している。
さて、
宇宙人はリザに地球人全体に当てはまる「心の病」を認識した。
それこそがいつまで経っても堂々巡りしている地球人の病であることを認識したのだろう。
同時にそれを直すことができるのなら、地球人にも希望が持てる。そう考えたと推測する。
リザは宇宙人にテストされることになる。
それがこの「チューブ」だ。
リザはアダムを発見するが、すぐにトラップによって避難しなければならない。
避難場所には2人くらいは入れそうだが、決してそうはせず、自分だけが助かろうとする。
折り合いを付けようとしなかったのは、アダムの一方的な圧力に抵抗すのが精一杯だったからだ。
おそらく地球人はそうしながら今まで生きてきたという象徴的なシーンだ。
リザはアダムの腕輪に隠れた手首の記号を発見する。
そしてももう一歩のところで… 気づけばふりだしに。
リザはそもそも死にたいとか娘に会いたいと願い続けていた。
しかしこの状況に置かれ、頭の中に湧くインスピレーションは「生きること」
しかし傷だらけになり、すでに気力は尽きた。
血で記号を書いてみたものの、変な骸骨の治療を遠慮し、「逝かせて」と願う。
注射は毒で、一瞬で死ぬのだろう。
宇宙人の希望はここで潰えたかに思えたが、リザが記号を解読したことで希望を見出しチャンスが戻ってくる。
あの擦りガラスのような部屋に映し出されたリザの記憶
まるで死の直前の走馬灯
追手のバケモノは恐怖の象徴
バケモノは自分自身の心の恐怖 だからバケモノは自分自身でしか処分できない。
そして最後の岐路
となりの通路から出てきたボール、そして娘ニナ
ニナはリザに「こっちよ」と言って彼女を誘う。
幻想と現実
どこからどう見ても現実にニナがいるようにしか感じない。
でもニナは死んだ。
リザはその事実を受け入れたのだろう。
「時間は忘れて」
ニナの誘いには乗らなかった。
彼女は正しい選択をした。
しかし、ゲーム「トゥームレイダー」のような仕掛けで右足の先を切断
やっとたどり着いた「空」はフェイク
しかし「やりきった」リザには「満足」があった。
この「満足する」ということにこの作品が考える人間のあるべき姿が示されている。
一つ手に入れたら「次」 また「次」
「そんなことで満足するな」と叫ぶ上司
この世界の虚構の大きなひとつが「満足できない」ことなのだろう。
ないものばかりを求め、あるものを顧みることがない。
あるものに、満足しない。
絶えず次を求めるのが良しとされる社会
それがもたらす狂気 現代社会 いまの地球
アダムという殺人鬼でさえ、2つや3つの殺人では満足しない。
狂った世界
この作品は、リザを通してこの世界の狂気を描いている。
絶望の淵でさえ、満足することは可能なのだ。
今の自分の精一杯が出せたのであれば、それは満足すべきなのだ。
その満足にふさわしい世界こそ「楽園」なのだろう。
その楽園にいてもリザは宇宙人から「生きる」ことを求められる。
「生きなさい」
リザが最も愛するニナの姿を借りた宇宙人はそう言った。
生きている間にしか「学ぶ」ことはできない。
楽園で目覚めたリザの右足は健在で、他の傷もない。
すべては幻想
チューブで起きたことも幻想なら、ニナもまた幻想
そしておそらく、地球上で起きていることもすべてが「幻想」なのだろう。
この傷つきようのない幻想のなかで「生きる」ことで私たちは「学ぶ」
この作品はきっとそんなことを伝えたかったのだろう。
しかし1点
「時間」というものは実在しないことも織り込んではいるが、少しばかり詰め込み過ぎている。
でも基本的にスピリチュアル的な作品でメッセージ性が強い。
とても面白かった。

R41