「【派手さはないが、ボクシングの虜になった三者三様の生きる姿が、ボディーブローのように効いてくる作品。柄本時生を始め、メインの4人の俳優が良い味を出している作品でもある。】」BLUE ブルー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【派手さはないが、ボクシングの虜になった三者三様の生きる姿が、ボディーブローのように効いてくる作品。柄本時生を始め、メインの4人の俳優が良い味を出している作品でもある。】
ー 吉田惠輔監督は、オリジナル脚本で勝負出来る数少ない邦画監督である。吉田監督が自ら続けているボクシングをどのように映画として描いたのか興味があり、仕事終わりに劇場に足を運んだ・・。ー
■感想
1.メイン3人のキャラの違いが、相乗効果を生んでいる。
1)瓜田(松山ケンイチ)は、ボクシングを心から愛し、ボクシング理論も優れており、そのコーチングぶりは的確だが、自らがリングに立つと、連戦連敗の日々。
だが、彼は町のボクシングジムでは、頼れるコーチとしてボクシングに取り組む日々を”明るい顔”で送っている。
ー 瓜田が一番強そうなのだが・・。吉田監督は、敢えて瓜田を松山ケンイチに演じさせたのだろう・・。
2)ジムの後輩、小川(東出昌大:ここから、復活して欲しい・・)は、天才ボクサー。瓜田の指導を受けながら、スーパーウエルター級チャンピオンを目指す。だが、パンチドランカーの兆候が表れている事に悩まされている。
3)同僚の女の子にモテたいためにボクシングを始めた楢崎(柄本時生:今作でも、見事なサブキャラ振りを発揮している。)
当初は同じ練習生赤く髪をそめた洞口に馬鹿にされながらも、そしてビビりの性格を抱えながらも、瓜田の的確なコーチングにより、徐々に実力を付けていく。
ー 楢崎と洞口の関係性も面白い。洞口が散々馬鹿にしていた楢崎がプロテストに合格し、洞口は不合格。そして、二人のスパーリングで起きた事故。だが、洞口はボクシングを辞めてからも、楢崎を責めずに、試合に応援に来る。
事故後、洞口の表情は、憑き物が取れたように健全な良い顔をしている。楢崎の頑張りを認め、自ら諦めざるを得なかったボクシングの夢を楢崎に託しているからであろう・・。根は良い男なのである。ー
2.千佳(木村文乃:美しさに変わりはないが、顔つきが、柔和になった気がする。)と、瓜田と小川の関係性の描き方が、絶妙である。
千佳は瓜田の初恋の人だが、今では小川の恋人である。だが、三人の関係性は”表面上”は良好である、あの夜までは・・。
◆小川が、”チャンピオンになったら千佳と結婚する”と告げ、見事にチャンピオンになった祝勝会の帰り、千佳と瓜田と小川が三人で帰るシーン。
瓜田が、俯きながら小川に言った言葉。
”俺は、お前が負ければ良いと、ずっと思っていたよ・・”
屈託した思いを抱えつつ、小川にボクシング指導をしていた瓜田。それは、彼が何よりボクシングを愛していた証である。
少し、涙腺が緩んだシーンである。
そして、小川の前座試合で負けた瓜田は、ボクシングジムから姿を消す・・・。ー
<瓜田が後楽園スタジアムの後方で見守る中、小川も、タイトルを奪取され、引退する。
一番弱かった筈の楢崎のみが、ボクシングを続けている。
瓜田は楢崎にボクシングのコーチングのノートを渡し、楢崎の試合を見ている。
引退した筈の小川は、早朝、川沿いの土手の道をランニングしている。
そこで、楢崎と会う・・。
ボクサーで、チャンピオンになり、名を残す選手は数少ない。多数の者は、敗者である。
だが、彼らは、決して人生の敗者ではないと、私は思う。
鑑賞中、ジワリジワリと沁みて来ます・・。>