「ドラマティックな受容プロセス」サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
ドラマティックな受容プロセス
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認知症や障害、もしくは余命宣告を受けた人(そして時にはその家族も)がたどる心理的なプロセスは、概ね否認→混乱→努力→受容となるようだ(プロセスの区分はいろいろある)。私も母が認知症になったとき、同じような思いをした。自分が障害を持つことになったら受容までにかなり時間がかかるんじゃないかと想像してしまう。ましてやバンドのドラマーとして活動していた人が聴覚を失うなんて、そのショックは想像以上だろう。
聴覚障害者を支援する施設で生活するようになったルーベンが、徐々に皆を受け入れ交流していく過程、特に静寂の部屋でノートに向き合うルーベンの変化がとてもよかった。実際にこんなセラピーもあるのかもしれない。
でも映画だからここで終わるわけがない。ルーベンが手に入れたかったのは元の自分と元の生活。やはりそれを取り戻そうとしてしまうのだろうか。ガン患者とその家族が怪しい民間療法にすがる姿とダブってしまい切ない気持ちになった。そしてインプラント手術で手に入れた機械仕掛けの音たち。聞こえたのは美しかった世界の物音ではなく、歪んだエフェクトのかかったノイズでしかなかった。最後、イヤホンをはずしたルーベンの表情はまさに「受容」。元の静寂の世界に戻る彼の姿はとても穏やかで美しかった。
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