「彼女は逆境ファイターだ」野球少女 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女は逆境ファイターだ
2021年3月8日の「国際女性デー」に英経済誌「エコノミスト」が発表した「女性の働きやすさランキング」において、日本が主要29カ国中ワースト2位だったことが話題になったばかりだ。
そして、最下位の29位は韓国だった。
本作はプロ野球選手を目指す女の子のスポ根物語ではあるが、韓国の社会性を背景にした母と娘の確執と、二人それぞれの心の葛藤も描かれている。
貧しい一家の母親は、娘に普通の職に就いて欲しいと思っている。娘は無理解の母と対立するものの、母に従って就職を決意する。ところが母親はそれが娘にとって不本意であることを知っていて、作業着姿の娘を見ることができない。
女であることの体力的な限界を理解し、夢に決着をつけようとする主人公(娘)に対して、この母の心境はより複雑だ。
実現不可能な夢を追う娘を現実の世界に戻してやりたい親心と、夢を諦めさせたことに後ろめたさを抱いた母心が葛藤する。
娘の理解者である体の父親は無責任な存在で、母親は家族に対して強いプレッシャーを負っているように見える。稼ぎがない夫を責めることはあっても、家事や育児には淡々と従事する姿に韓国の家族像が見え隠れする。
しかし、その夫に言われて自分が娘の野球を応援していなかったことに気づいた母親は、トライアウトに挑む娘の姿をスタンドから見て、母である自分以上に娘を応援して支えようとしている人々の存在を知る。
帰宅後、娘がまだ幼い頃にアイスクリームを買ってやるのが惜しくて叱りつけたことを告白し詫びる場面が切ない。
夢など捨てて就職することが正しい選択だと押しつけていたことが、アイスクリームを買ってやらない自分ではなくアイスクリームを欲しがる娘が悪いのだと叱った時の理不尽さに重なったのだろう。
主人公が、野球をやるうえで女であることは長所でも短所でもないと大人たちに言い放ち、自分が目指すのはプロ野球選手なのだと改め自覚した後、一人でアイスクリームを食べながら思いを巡らせたのは何だったのだろうか。
自分は野球フリークではないので、この映画にどれほどリアリティがあるのかは分からない。
星飛雄馬(巨人の星)は、体格が小さいゆえに球威がなく速球ではプロに通用しないことから「大リーグボール」を開発する。
本作と同じ女性投手水原勇気(野球狂の詩)が投げる「ドリームボール」は、その実態がミステリーで、正体はナックルボールだという説が有力だった。
そんなマンガ知識に基づくと、一定の説得力はありそうだ。
映画の主題は、独立リーグ出身の新任コーチと元天才野球少女の主人公が二人三脚でプロ野球を目指す奮闘記だ。
プロ野球が女性を差別している訳ではなく純粋な実力社会であることを前提に、女性だからといって実力が及ばないと決めつける人間の存在を主人公にとっての壁として見せている。
協力者として、プロ入りが決まっている幼馴染みのチームメイト男子と、アマチュア女子野球で活躍している女教師が参画する。
このコーチには複雑なサイドストーリーがありそうなのだが、そこは掘り下げられていない。プロになれなかった自分の指導でいいのかと尋ねるコーチに、主人公は、自分が代わりにプロに行くと答える。直接的には描かれていないが、コーチ自身の再生の物語が裏側に潜んでいる。
幼馴染みのチームメイトは、主人公に男女の体力差を思い知らせる存在でもあるが、野球への情熱を共有でる存在でもある。
女教師はアマチュア野球を仕事と両立させるために寝食を削って真剣に取り組んでいる。主人公はその姿を見つめてはいるのだが、アマチュアは金がかかるというのがプロにこだわる背景にあるというのが不憫だ。女教師もアマチュアを勧めるようなことなく見守る。
トライアウトの場面にしか登場しないが、アメリカのアマチュア野球出身の女性スラッガーが、このエピソードを盛り上げる。
主演のイ・ジュヨンは、韓国で今注目の女優らしい。
母親役のヨム・ヘランが風貌も演技も実にリアルだ。
日本の高校野球が女子に門戸を閉じている点においては、韓国の方が開けている気がする。
恐らく、主人公の野球人生には厳しい現実が待っているだろう。だが、主人公は燃え尽きるまで野球と向き合い続けるだろうし、プロを退かなければならなくなった時、母親は「それ見たことか」とは決して言わないはずだ。
今晩は
コメント拝読しました。
(このコメントバックは直ぐに消えるので、個人的な話を)
私にも長女、長男がおります。長男には、好きな事をやって貰おうと思いつつ、愚かしき20代の私は、キャッチボールやサッカーを幼き息子として”どちらが好きかい?”と聞いたら、”サッカーが好き”言うので、(私の居住区では私が勤務している会社がスポンサーの名古屋グランパスです。)グランパスの下部団体に入り、毎週終末、練習に連れて行っていました。私もサッカーをやっていたので、つい息子に過剰な期待をかけてしまい、(家人に聞くと)辛い思いをさせてしまったようでした。
慰めは、彼が愚かしき父親のプレッシャーにもめげず、高校までサッカーを続けてくれた事でした。
最近、大学生になった息子に”すまなかった・・”と詫びたら、笑いながら”父さんの存在は、半面教師として、参考になったよ・・”と言ってくれました。彼は、”逆境ファイター”でした・・・・・・。
では、又。
kazzさんへ
トライアウト場面以前に、高校野球部がプロに指名される選手を輩出しそうなレベルに見えないってのが…
最初からリアリティ無さ過ぎですw
おはようございます。
”恐らく、主人公の野球人生には厳しい現実が待っているだろう。だが、主人公は燃え尽きるまで野球と向き合い続けるだろうし、プロを退かなければならなくなった時、母親は「それ見たことか」とは決して言わないはずだ。”
素敵なレビューですね。こういうレビューを、いつか書けるようになりたいモノです。