「韓国社会の現状を織り込んで鑑賞すると、より物語を咀嚼することが出来る、かも。」野球少女 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
韓国社会の現状を織り込んで鑑賞すると、より物語を咀嚼することが出来る、かも。
かつては天才野球少女と呼ばれていた、野球部唯一の女性球児スイン。スインと新任コーチのジンテとの交流を軸に、プロ入りを目指す彼女の苦悩と努力、母親との確執などを描いた青春野球映画。
女性野球選手を取り扱った作品って、日本の漫画作品には割と多い気がする。
水島新司先生の「野球狂の詩」をはじめ、「高校球児ザワさん」とか「大正野球娘。」とか「MAJOR2nd」とか「鉄腕ガール」とか「セーラーエース」とか。
これらは「野球人気+漫画人気+可愛い女の子=人気が出る!」という単純なメソッドから生み出されているものも多く、わざわざ女子にする必要あるんかいな?と首を傾げたくなるものも多いのだが、本作は女性がプロ野球選手を目指すという物語軸がジェンダー論や性差別を考えることに結びついている、極めて意味のある設定であると感じた。
野球という肉体を用いるスポーツの場合、どうしても女性は筋力などのフィジカル的な要素では男性に勝てない。
であればこそ、投球の回転数とボールのキレで勝負するという必然性が生まれるわけで、それが特訓シーンや勝負の駆け引きという映画的な面白さに繋がっているように思う。
野球界で女性が不当に扱われている、という単純なポリコレ論に物語を落とし込ませていないところも好印象。
「お前はプロを目指すには単純に実力が足りない」という指摘をすることで、女性だからとか男性だからとか、そういうジェンダー論とは離れたところに焦点を合わせることで、逆に正しいポリコレを表現できているように感じた。
それとは別に、女性だからという理由で軽くあしらわれたり、トライアウトを受けることが出来なかったりする描写には明確な女性差別、もっというと、女性が野球で成功する訳がない、速球が投げれない投手が成功する訳がない、という野球界の前例信仰を浮き彫りにしているようにも思う。
不景気による就職難という問題も物語に絡ませており、この辺りは社会派映画を得意とする韓国映画の特色がよく出ている。
まぁ正直、お父さんが逮捕される件はいらんと思ったけど。
ポリコレ論、ジェンダー論、韓国社会への問題提起に加え、母と子の問題をも突き付けてくる、どこまでも重量級な映画。
このお母さんとスインの食い違いは、どちらの言い分も正しいからこそ考えさせられるところ。
最後の最後、お母さんが応援に来るところはベタだけどホロっとさせられるし、契約金を自分が払うお金だと勘違いしちゃうところなんかはとても癒される😌
実は韓国の高校球児って3000人くらいしかいないらしい。対して日本には13万人以上の高校球児がいる。
これは韓国で野球人気がない…ということではない。
学歴社会の韓国では、高校生が部活をしている暇がないのだ。つまり、高校で野球をやっているような学生は皆プロを目指しているようなマジな奴ばかり。
プロになれなければ落ちぶれるしかないという、非常にハードな現実が存在していることを把握しておくと、この映画の物語の輪郭がよりはっきりするのだと思う。
タイトルからして、明るく楽しいスポ根映画かと思って鑑賞すると肩透かしを喰らう。
全体的にゆっくりとした映画で、正直かなり退屈🥱
また、映画内の経過時間は長くて半年とかそのぐらいだと思うのだが、その短時間でナックルボールをマスター出来るんかな?とか疑問なところもある。
もっと長いスパンの物語にすれば良かったのでは?と思わんこともない。
退屈な映画とはいえ、テーマがしっかりしているので鑑賞後の満足感はある。
イケメンも出てくるが、下手に恋愛要素を入れて物語を薄めたりすることもない。
夢を追う為に負うべきリスク、それでも挑戦することに意味があるということを教えてくれる、良い映画だと思います!
たまに笑うスインがキュート❤️