「枝葉を切り落として、ひたすら主人公が努力する姿を描く一方、きっちり「ガラスの天井」の厚さも示した一作。」野球少女 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
枝葉を切り落として、ひたすら主人公が努力する姿を描く一方、きっちり「ガラスの天井」の厚さも示した一作。
なかなかド直球なタイトルどおり、韓国の女子野球部員がプロ球団入団を目指してひたすら努力する物語。まさにポスターから受ける印象そのままなんだけど、最後まで目を引きつけて放さない魅力があります。
主人公のスインは高校生で、野球部員として業績があるらしい、という最低限の情報は伝わってくるものの、舞台背景は劇中の演技を通じて示されるのみで、説明的な場面や台詞は最小限に抑えられています。このように観客をいきなり作品の状況に飛び込ませるという構成は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)以降に顕著となった手法にも通じるように感じますが、本作では要所要所に絶妙に伏線を絡ませつつ、巧みに観客の気持ちをスインに同調するように誘導しています。
スインは友人と違って、歌いも踊りもせず、着る服も大半はジャージかユニフォーム。必要とあれば「目上」とされるような男性に対してもきっぱりとした意思表示をするなど、「媚び」をすることをしない性格で、母親はそんな娘が社会で生きていけるのかと心配が絶えない。娘を思いやる余り、つい彼女の神経を逆なでするような言動をしてしまい、激しく衝突する。そして父親もまた、社会の求める理想の男性像に追い詰められてしまう。このように個々人の具体的な言動を通して、韓国(だけでなく多くの国や地域で見られるような)社会の「ガラスの天井」がどのようなものなのかをしっかりと示しています。それだけに、終盤における母親の一見ちぐはぐな言動を聞き、スインが立つべき場所に立っていることを目にして、心が揺さぶられます。
物語の語り口を、映像と音楽がより一層明瞭にしています。あからさまな特殊効果などはほとんど見られない一方、特に球場におけるコントラストの強い映像、鋭い打球音や捕球音は、あたかもそこにいるような現実味を与えてくれます。