「不条理。本当に不条理。」ビバリウム Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
不条理。本当に不条理。
名前くらいは聞いたことがあるであろうカッコウと言う鳥は、他の鳥の巣に卵を生み、その親鳥に世話をさせる鳥だ。親鳥よりも雛が巨大になるという滑稽とも言えるその様は、自然を生き抜いてきたそれぞれの生物の進化の過程の様子である。本作の冒頭でそれが描かれるのだが、本作はまさにその通りの内容である。9番の家の輪から抜け出せなくなった二人の元に運ばれてきた赤ん坊。それは僅か100日程で6〜8歳位の少年に成長する。その子どもこそがカッコウと全く同じ立場なのである。可哀想に家を見に来ただけのカップルはカッコウの雛を必死で育てる別の種の親鳥となってしまったという訳である。
では誰がそうさせているのかについては、本編には登場しないものの、地球外の生物である可能性が高い。それは、本編で描かれる「モノマネごっこ」のシーンや、既に30代位の大人になっている少年が持ってきた本の文字を見ると、そう感じさせる。この本の文字が「プレデター」の文字に似ていて個人的にはかなりハマった。
本作の見所は何と言っても不気味すぎる少年。人の真似事をし、空腹時は甲高い大声で叫び続ける。表情はほとんどなく、人間らしさの欠片もないそれが異様な怖さを放つ。また、無機質で永遠と立ち並ぶグリーンの家。この心底不条理感満載の世界観に主人公よろしく放り込まれるのだ。
残念な箇所は、何も明確に描かれないところだ。終盤まで不気味すぎる日常生活と、穴掘りに夢中になるボーイフレンドの様子が続き、いよいよ後半で動くのだが、結局のところ何をしても9番の家の輪からは抜け出せないという事が明確になっただけであり、最も知りたい所が分からなすぎるままエンドロールを迎えてしまう。
違和感が溢れていた謎の不動産屋の店員にまで話が及ぶのだが、エイリアンが非効率的な地球侵略では無く、徐々に緑の家に住まわせて不気味な子どもを育てさせ・・・という乗っ取り方法を考えだしたのかと色々と想像が働くが、一つの生命の輪廻転生の様にも見える。あの規模で一人の男の輪廻転生だけであれば効率とかの問題ではなく、何のためにやっているかも分からない。この様に、誰が、とこで、何故、という「?」の部分には一切明確な答えが無い強烈な作品であった。
ラストは、せっかく抜け出したにも関わらず、もう全人類はカッコウの雛を育てる別の種の親鳥になっており、帰る場所を無くして途方に暮れる位の大風呂敷を広げたラストでも良かった気がする。