配信開始日 2020年12月18日

「マ・レイニーの存在感にひけを取らない、チャドウィック・ボーズマンの名演を堪能する一作。」マ・レイニーのブラックボトム yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5マ・レイニーの存在感にひけを取らない、チャドウィック・ボーズマンの名演を堪能する一作。

2021年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

マ・レイニーは、「ブルースの母」として知られる実在の人物ですが、それ以外の人物、出来事は架空の物語ということです。この事実と創作の境界線の曖昧さは、『アンモナイトの目覚め』にも似た作品的特徴ですね。

もっとも本作の主人公は、終始強烈な存在感を発揮する彼女ではなく、彼女のレコーディングに参加したバンドの若いメンバー、レヴィー(チャドウィック・ボーズマン)です。彼は白人プロデューサーにこびへつらいながらも、実は白人に対して激しい怒りを抱いており、その怒りを音楽家としての立身出世の原動力にしようとしています。白人プロデューサーが上階の録音室に陣取り、階下のレコーディングスタジオにいるマ・レイニーとバンドメンバーを見下ろす建物の構造など、『パラサイト』(2019)にも通じるような、二極化した人々の格差を、かなり分かりやすく見せています。この強固な格差の構造を目の当たりにすると、当初からレヴィーの闘いが絶望的であることがはっきりと分かります。

同時にまた、レヴィーらの台詞の言い回しはまるで歌のように美しく、そのメッセージの凄惨さとは対照的に、ついつい聞き入ってしまうような魅力があります。それがまた、レヴィーの儚さをより一層際立てます。『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスの名演はもちろんアカデミー主演男優賞にふさわしいと思っていますが、やはり本作のボーズマンの演技を観ると、やはり彼に贈られるべき賞だったのでは…、と考えてしまいます。

舞台劇が原作と言うことで、映し出される空間はかなり限定されているものの、そこに詰め込まれた要素の密度には感動すら覚えること間違いなしです。こうした作品を制作するNetflixの姿勢も素晴らしいけど、やはり劇場で観たいところ…。

yui