「車だと速すぎるんだ」陽に灼けた道 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
車だと速すぎるんだ
ロード・ムービーは、荒涼とした風景が似合う。本作は、チベット高地だ。
幹線道路なのだろう、意外に車が多くバスも通るので、何かあったら助けてもらったり、町に行くこともできる。
なるほど、これなら「巡礼」は不可能ではない。そういうチベット事情も勉強になった。
とはいえ、毛布一枚で、寒くないのだろうか? 驚くべき人々である。
また、長旅でボコボコに凹んだ鍋も興味深かったが、わざと叩いたような不自然な凹み方だったのは気のせいか(笑)。
主人公は、とりあえず家の方向には進む。しかし、「帰宅」はどこまでも先送りしたい。
「帰る」という踏ん切りをつけることができず、半ば「行く当てもない」という心境にさえなっている。
映画「幸福の黄色いハンカチ」の高倉健のような、このキャラクターの造形は良かった。
本作の問題点は、老人のキャラ設定の弱さ、つまらなさである。
なぜ主人公の世話を焼くのか、家庭でどういう問題を抱えているのか分からない。
「もっと強くなれ」と主人公に諭しつつ、自らも鼓舞しているのか?
しかし、単なる“狂言回し”で良いならば、もっと興味深いキャラクターを発明して、ストーリーに厚みを付けられたはずだ。
映画「幸福の黄色いハンカチ」の、武田鉄矢と桃井かおりのように。
ソンタルジャ監督の長編第一作目だそうだ。
フラッシュバックの入れ方にメリハリがなく、分かりづらかった。確かに“荒削り”なのかもしれない。
ただ、繊細な表現でありながらも、「皆(みな)まで言わすな」とばかりに、剥き出しの感情表現を抑えて、どっしりと構えている感じには“風格”が感じられた。
最後は、ラサに行っても手放せなかった母の骨粉を撒くところで終わる。
そのことで母の死を克服し、次へ進もうとするのであろうか?
ラストシーンでは、唐突に兄の子供のアップが出る。かなり長い時間、じっと映している。
その意図を自分は理解できなかったものの、ここは良かった。
もしかしたら、子供は母の生まれ変わりなのだろうか?