「「自分」の居場所を探して」Swallow スワロウ maruさんの映画レビュー(感想・評価)
「自分」の居場所を探して
異物を吞み込むことで感じた得体のしれない達成感。その正体が、「自分にしかできないこと」だと頭で感じた瞬間、そのつまらない子供じみた好奇心で行った行為に虚しさに、彼女は、画鋲を吞み込んだときに涙した。なんともいえない人間らしい儚いシーン。
(子どもが生まれたら、私に対する対応が何かが変わるかも)という期待は日々を積み重ねるにつれて崩れていき、子どもが愛されるようになるだけで「自分」に意識が向くことはないことを理解していく。
酒に酔っていた夫の仕事仲間にハグを求められ、「自分が必要とされた」と思ってハグをやり返すが、後日その男は女性なら誰でもよかったことを知り落胆する。
過去の秘密(すべて)を話し、「自分」を見てくれるカウンセラーにハグをした=心を許したのに、夫にその情報が筒抜けで、「自分」が尊重されておらず落胆する。
最後の最後、母親頼れない結果、レイプした父親しか残っておらず、消去法で父親のもとへ向かい、「自分」の存在はなんなのかと聞きに行く。「自分」がわからないまま彷徨い歩き、たどり着いた結果はとても酷な方法でだったが、やっと「自分」でいていいんだと救われる。
自らの決断で子どもを堕胎し、「これまでの自分」を捨てて、「自分」を生きていく決意をするトイレでのラストシーン。入れ替わり立ち代わり女性が出入りするトイレ内のシーンは、非日常に近い一人の物語がいったん終わり、多数の女性が出入りすることで「日常」が画面に現れる。
『そんな日常の中に生きているんだよ』と、誰がどんな思いで生きているかはわからないまま「日常」を生きているんだよと。
戦争を経験した看護師役の男性は、痛みがあふれる世界で生きてきたからこそ、ヒロインの痛みを敏感に感じ取っていた。戦地にいる必要はない、安全な場所はある。逃げなさい。といわんばかりに、やさしさに溢れていた。そんな気がする。
胸にグッとくる、良い映画でした。