「飲み込んで出す」Swallow スワロウ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
飲み込んで出す
一日にひとつ、驚くような挑戦をしなさい。
観ているだけで喉の奥が鈍く詰まるような、鋭く痛むような、硬く突き刺さるような、そんな感覚になる映画だった。
ちょっとした塊を飲み込む快感、わりと共感できる。
喉に引っかかったものを頑張って飲み込んで、スルッと抜けた時のなんともいえない気持ち良さと達成感。氷とか飲み込んじゃうの、わかるでしょう。
でもちょっと異物が過ぎるよ、ハンター。
異食がエスカレートするごとに苦しくなる。
でも、飲み込むハンターの幸せそうな顔、満足そうな顔を見るとなんだか愛しく思えてる不思議な感覚。
止めてほしいのに、無理に止めなくても良いよと言いたくなる。
夫と義両親からのナチュラルな疎外と見下し、すれ違いがなんともしんどい。
彼らに明確な悪意やイジワルが無いから余計にタチ悪い。
あのような夫はたくさんいるだろうし、あの感じの人と全然上手くやっている妻もたくさんいるだろう。
育ちも価値観も何もかもが違って、求める幸せの形も違って、ただひたすらに分かり合えない辛さ。
ネクタイのシーン、すごく嫌だったな。
「良かれと思って」が真反対の結果になってしまった時の居心地の悪さ、身に覚えがありすぎて心臓をすごく抉られた。
なかなかストレスの元に気付いてくれないハンターがもどかしかった。
その出生から、実の家族からもさりげなく疎外されてきたんだろう。
きっとずっと孤独で、「誰かに愛されないと」「間違えてはいけない」と、知らず知らずのうちにプレッシャーを抱えてきたんだろう。
小さな傷を負うことに慣れたのか知らぬふりをしていたのか、わりと天然というか、心配に対する反応が若干ズレているのが興味深い。
口元だけでにっこり笑って見せる顔が可愛らしくも痛々しい。
引き寄せられるように自分の根本を辿り、やっと一つ断ち切れたとき、やっと彼女の人生が始まるのかなと思った。
ポップコーンつまむみたいに土を食べるシーンが好き。お家でスナック食べるとき、あんなかんじじゃない?
夫とその家族に対しての負の蓄積が特に晴れないことや、終盤の謎の駆け足感と尻切れトンボ感に少しモヤモヤは残るけど、面白い作品だった。
リアルな「イヤ」が多くダークな話なのに、描き方もビジュアルもポップな抜け感がある。
氷がきしむ音って好きだな。