「ビー玉も画鋲も土もストレスものみこんでしまう話」Swallow スワロウ わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
ビー玉も画鋲も土もストレスものみこんでしまう話
予告編を観て物凄く気になっていた作品でした。どうやら“異食症”と呼ばれる、どんなものでも呑み込んでしまう女性というインパクトと「どうしてそんなことするの?」という興味で観に行きました。いや〜不謹慎ながらとんでもなく面白い作品でした。
自分はストレスが溜まったらどうやって解消してるだろうかと考えると、それこそ一人で映画を観に行ったり、カラオケに行ったり、美味しいものを食べたりしてるかなあ。主人公のハンターにはそれが見つけられてなかった。
まず、自分自身に対する肯定感というか、アイデンティティーを示すことができないこと。劇中で明かされる出生までの過程、金持ちの旦那さんを見つけたは良いものの家事を完璧にこなせるわけではないということ、ハンターの結婚していてもどこか孤独な様子が容赦なく描写されていきます。
そして、度重なるモラハラ。結婚することに希望が抱けなくなってしまいますよこんなの見ると。姑のお節介はデフォルメされてないリアリティーを保っているし、夫は「愛している」とは言ってくれるし、愛情表現も頻繁にしてるけど、仕事優先だったり、家族のお節介を止められなかったり、ちょっとのミスで「ファック!」となったり。これも本当に演出が上手くて、ハンターが異食症になってからも、理解しようとはしているし、彼なりに彼女のためを思って行動してるのは伝わってくるのが辛い。「ファック!」と言った後にちゃんと後悔しているのが辛い。つまりお見事。
そして、彼女は花を育ててみたり、カーテンの色を変えてみたりもしたし、夫の同僚のようにハグで寂しさが解消されるかを試してみたりもしたけど、結局氷を飲み込んだ時の気持ち良さをきっかけに、どんどん固形物を呑み込んでしまうんですよね。非常に痛々しいシーンもありました。
この物語をどう片付けるのか途中から不安にもなってきたりもしたのですが、実に見事に着地させたと思いました。ネタバレは避けつつ記録に残しますが、ハンターにとって因縁の相手に会いに行くシーン。「私はあなたとは違う?あなたに答えてほしいの。」つまり、自らのアイデンティティーを取り戻し、さらにとある決断をする、でもその後はあえて描かず想像に任せるという流れでした。ラストカットのハンターは、髪型も表情も全く違っているように見えます。彼女の今後、夫の今後はどうなったんだろうと余韻に浸れる作品でした。
あと、変なところでアップになる演出が面白くて。自分が気付いた変なところのアップは、ドレッシングとか掃除機のコードとか調理に使われた動物の残った眼とか。つまり、何かの付属品のものが多くて。夫にとってのハンターの存在や、ハンターが自分自身を主役と思えないことを暗示しているのかなと思いました。
固形物はもちろんストレスものみこんじゃいけないなと思わされる作品でした。傑作だと思います。