「アドレナリンジャンキー」スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
アドレナリンジャンキー
普通の人には分からないだろうと思う。
STUNTって仕事の楽しさを。
だいたいからして頭のネジがどっか飛んでる。
燃やされたり、落っこちたり、撥ねられたりして楽しいと思えないのだろうと思う。
でも彼女達は笑う。
この仕事が好きだという。
骨が折れようと、傷だらけになろうとも。
「挑戦」という言葉が印象に残る。
そんな大それたものでもないとは思うけど、出来なかった自分は超えられる。
恐怖にすくむ自分が変わる実感がある。
その一歩を踏み出す勇気。
後一歩を踏み込む勇気。
その自分が映像に残る。結果として残り実績として讃えられる。自分以外の何も使わない。試されるのは自らの気概だけだ。
別に1番になりたいわけじゃない。
「できるか?」と言われれば「出来ない」とは言わない。自己顕示欲とはまた違う。どちからといえば存在証明に近い。そこで諦めれば、そのカットを成立させることは実質的に不可能となり、自分がそこに居る意味もなくなる。目の前に誰も開けた事がない扉があって、その扉を最初に開けた人になれるのだ。
…そんな快感、手離す方が惜しいだろう!
「スタート」の声がかかる前の静寂が好きだ。
その刹那に滲み出るような熱を感じる。
ほんの数秒の間だけれど、自分自身をこれでもかって感じられる時間だ。
ヤバいスタントになればなるほど、その瞬間は長くなり集中力はあり得ない程高まっていく。
数秒先の絵が見える事だってあるし、スローモーションに見える時だってある。
あり得ないくらい気持ちは昂っているのに、思考は無風の水面のように静かだ。
カットがかかった時に、現実に戻る。
生きてるって実感を体中が発信する。
時間の流れは戻り、それまでの風景がそれまでの風景に戻っていく。
なんて言っていいのか分からないけれど、俺達にしか分からない極上の達成感がある。
ぶっちゃけると俺は同業者だ。
劇中のメリッサとも仕事をした事がある。
だから、この作品を見て思う。
やっぱ楽しそうだなぁって。
なんで楽しいと思うのか、色々思い当たる事はあるのだけれど、説明しても理解は出来ないだろうと思う。その現場に立ってやり遂げない限り。
劇中の誰かが言ってたけれど、違うチームに居ても私達はファミリーなんだと。
ホントにソレ。
自分の命は誰かの手の中にあって、誰かの命が自分の手の中にある。そんな極限の信頼感の中で仕事をする。それが特別ではなくて普通の事なのだ。
この作品はSTUNTって仕事を過大も過小もしてないと思う。そのまんまだった。
日本はアクション後進国だけど、それは環境の問題に起因するところが大きい。
だから不遇の時代を経てきたスタントウーマン達の境遇に重ねてしまう。彼女達が自らの地位を確立できたように、日本もそうなればいいなと思うのだけれど、圧倒的な環境の差は否めない。
マーケットが違うし、スタントが生まれた経緯も違う。ギャラも待遇も格段に違う。
だけどスタントに求められる事は世界共通だ。
嘘も偽りもない。
体を張って命を懸けた仕事ではある。
根本的に危険な職種ではあるけれど、危険かと聞かれれば「そうでもない」って答えられる職種ではある。
勿論、個人のスキルに依るところは大きいけれど、普通の人が感じる安全とは、安全の水準が違うのは確かなのだろうと思う。
「車に撥ねられる」
安全な撥ねられ方って想像もつかないよね。
俺も想像つかなかったけど、あるんだなコレが。
とあるアクション監督が言ってた。
「君達は普通の人がやったら死んじゃうような事をやって、無傷で生還してくるからスタントマンって呼ばれるんだ。」ある意味真理だと思う。