「数多の名シーンを実現した女性達の実像に重ねて全ての女性に送られるエールが眩しいドキュメンタリー」スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち よねさんの映画レビュー(感想・評価)
数多の名シーンを実現した女性達の実像に重ねて全ての女性に送られるエールが眩しいドキュメンタリー
ミシェル・ロドリゲスがナレーションと進行役を務め、スタントウーマンの歴史、ベテランから駆け出しまで現役スタントウーマン達の日常、引退したスタントウーマンやアクション監督へのインタビュー、そして映画史上に燦然と光り輝くスタント名場面等で構成されたドキュメンタリー。
まず驚かされたのは戦前のモノクロ映画の時代から既にスタントウーマンが活躍していたこと。走る機関車から飛行機から垂らされた縄梯子に飛びつく等、ミシェール・ヨーが『ポリス・ストーリー3』でやっていたのと同じことを既にやっているのに驚きました。さらに驚いたのはそんなスタントウーマンの活躍の場が半世紀以上男性に占められてしまったこと。女性の仕事としては危険すぎる等のエクスキューズとともに女装したスタントマンに仕事を奪われた暗黒時代に風穴を空けたベテラン達が当時を回想するところで、もう涙腺崩壊。『ワンダーウーマン』、『ロマンシング・ストーン』、『スピード』、『マトリックス リローデッド』・・・次から次へと語られるあの映画のあのシーンに関する裏話は眼福で、それまで誰も出来なかったことを次々と実現し映画表現の可能性を地平線の向こうまで広げていく快進撃は爽快です。一方で語られるのはスタントウーマン達が当たり前のようにやっているルーティーン。私達はスペシャリストではないと言い切る彼女達に要求されるのは専門性ではなくどんな要求にも対応できる柔軟性。筋力増強やランニングに始まり、高所からのダイビングやカースタントを黙々と練習する様子とともに彼女達が最も大切だと語ることに映画を愛する者として激しく胸が掻きむしられました。
何より彼女達が何のためにそんな危険な仕事を引き受けるのかを見せるクライマックスは圧巻なのでこれは映画を愛する人だけでなく、映画にそれほど興味のない女性も観るべき作品だと思います。
本編にたびたび登場するミシェル姐さんがとにかく嬉しそうなのが印象的。笑顔で“私は職業を間違えたんだ“と語りながら、スタントウーマン達への憧れとリスペクトを全開にする姿はもうメチャクチャチャーミングです。
意外なところで『ロボコップ』や『トータル・リコール』の撮影を振り返るポール・ヴァーホーヴェン監督のインタビューが白眉。短いながらも自身の作家性を滲ませた金言の数々に感銘を受けました。