劇場公開日 2021年9月10日

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「【映画を観る理由】」浜の朝日の嘘つきどもと ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【映画を観る理由】

2021年9月11日
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僕の田舎の町に、むかし、映画館がひとつあった。

今はない。

僕が通った高校のある町には映画館がふたつあった。

今は、どちらもない。

地方都市も、市内の映画館は少なくなって、郊外のシネコンに取って代わられているように思う。

だからというわけではないが、この実在する映画館にはずっと映画を届け続けて欲しいと思う。

この作品は、映画館の存続を巡るあれやこれやに、人間味が溢れていて、楽しいのだが、実は、どうして僕達は映画を観るのだろうかと考えさせるようなストーリーでもあると思う。

茂木莉子こと朝日の経験した辛さや、先生との交流ようにだ。

どうして、こんなにも沢山映画を観るようになったのだろうか。

理由やきっかけは人それぞれだと思うけれども、身近に映画館があったという人は少なくないだろう。

僕は、田舎時代から映画は好きだったけど、映画好きを自認しはじめたのは、大学に入学して映画館が身近に沢山あるようになったことと、ロードショーだけではなく古い名画と呼ばれる作品をレンタルビデオだけではなく、大きな画面で観る悦びを知ってからのような気がする。
母親のジェームズ・ディーン好きも影響している。

そして、大学のゼミの恩師が無類の映画ファンで、最高の名台詞は何かということで盛り上がったこともある。

「第三の男」のオーソン・ウェルズのアドリブのセリフだ。
ウィーンの観覧車乗り場でのものだ。

名台詞としてはいささか長いが、これがアドリブなのかと驚いたのと、これほど社会に対して、リアリティとアイロニーを突き付けた名台詞を未だかつて聞いたことはない。

エンドクレジットの詩の一文の持つ意味と、映画とビデオで変更になった日本語訳が数十年にわたって僕を悩ませたのが、ウンベルト・エーコ原作の「薔薇の名前」で、これも印象深くて、しつこいくらい、たまに、友人に話す。

だからといって、このふたつがベスト2かと問われると、それも違う気がする。

映画には、テキストでは文字でしかないものが、社会学も、歴史学も、社会科学も、純文学も、政治学も、科学も、勇気も、愛も、正義も、理想も、現実も、問いかけも、全部、想像力を駆使したメッセージとして入り込んでいる気がするのだ。

だから、やめられないのだ。

ワンコ