「人の奥底にあるもの…?」ドライブ・マイ・カー bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
人の奥底にあるもの…?
アカデミー賞受賞作品らしく、芸術性の高い作品と言える。映画というより、本作で扱われているチェーホフの戯曲をモチーフにした、舞台演劇を観ているような感覚だった。村上春樹の原作『女のいない男たち』は、単行本発売当時に既読。本作は、僅か60ページ程の短編の為、それを3時間の映像にするのは、どんな感じだろうと思って鑑賞。
作品としては、3つのステージから構成されている。第1ステージとしては、主人公の舞台俳優で演出家の家福とその妻・音とのミステリアスな愛情劇。第2ステージは、広島で、キーパーソンとなる俳優・高槻等と行う舞台稽古風景。そして第3ステージが、家福の車のドライバーを務めるみさきとのドライブシーンと、特に大きなピークがあるわけでもないが、原作には無いシチュエーションを差し入れて、淡々とした会話劇が続く。
しかし、登場人物がそれぞれに抱える奥深い思いや、美しい日本の原風景を映し出すカット割り、そして、何といっても真っ赤なサーブの中での会話劇の展開に、時間を絶つのも忘れて魅入った。一つ一つのセリフの言い回しや重さ、セックスと言うものへの畏敬を感じさせるのは、それこそが、村上文学の神髄なのかもしれないし、そこを濱口監督が、巧みに映像化している。
主人公の家福を演じた西島秀俊は、妻の死から目を背け、散々、現実逃避をしている中、最後の最後で妻への思いを溢れ出し、人間の弱さを露呈する演技は見事。また、家福のそんな心に封じていた思いを引き出した、ドライバー役の三浦透子の演技も、これまた素晴らしい。感情を表に出さず、数少ない台詞の中にも、みさきが引きずる過去や、家福に与える存在感までも感じ取れた。
また、作品中で扱われていた、チェーホフの戯曲『ワーニャの伯父さん』を日本語だけでなく、英語、韓国語、そして手話も用いて、それぞれの訳をスクリーン映し出して台詞を言うというのも斬新。多文化共生社会への敬意もうかがえ、最後に、物音ひとつしない劇場で、手話によって語られるシーンは、圧巻だった。
ラストシーンは、日本だけでなく、韓国でも認められ、演劇が公開れたということと理解し、韓国への配慮も伺えた。サーブでドライブしながら、みさきと家福が、サンルーフを開けて、煙草の煙をたなびかせるシーンは、記憶に残る名シーンとなるだろう。
韓国手話と言うことですが、日本の手話も国際手話も全く分かりません。
しかし手話の演技を見ているだけで何故か心打たれ涙が出ました。
感動を与えるだけの演技だったと思います。