「映画史に残る珠玉のロードムービーが生まれた。」ドライブ・マイ・カー 豆腐小僧さんの映画レビュー(感想・評価)
映画史に残る珠玉のロードムービーが生まれた。
米アカデミー4冠作品ということで、かねてより注目していたものの、シアター系は1日1回しか掛からないという塩興行でなかなか時間が合わずやっと観た。
村上春樹短編の原作は読んでいないものの、いかにも村上春樹作品に登場する意識高い系夫婦wのセックスと超非現実な語りから始まる冒頭で、正直なとこ一抹の不安もよぎったw しかし全編鑑賞後、予想を遙かに上回る佳作であったと感嘆した。
とにかく上映三時間という長丁場にもかかわらず、丁寧に丁寧に登場人物達を掘り下げて撮り上げ、その繊細な演出も素晴らしく最後までダレることなく観ることができたと思う。確かに原作は村上春樹ではあるものの、浜口監督シナリオのストーリーテーリングは賞賛すべきところが多い。西島演じる家福の舞台演出術の描写などは、論理的で破綻もなく舌を巻いた。こういところはおざなりになりがちだから余計にそう思うのだ。
「仕方ないわ。生きていかなくちゃ…。長い長い昼と夜をどこまでも生きていきましょう。そしていつかその時が来たら、おとなしく死んでいきましょう。あちらの世界に行ったら、苦しかったこと、泣いたこと、つらかったことを神様に申し上げましょう。そうしたら神様はわたしたちを憐れんで下さって、その時こそ明るく、美しい暮らしができるんだわ。そしてわたしたち、ほっと一息つけるのよ。わたし、信じてるの。おじさん、泣いてるのね。でももう少しよ。わたしたち一息つけるんだわ…」
ロシア帝国の偉大な作家チェーホフはワーニャ伯父さんでそう書き記した…劇中の舞台と主人公たちの人生が鮮烈に交錯してゆくのは胸に迫るものがあった。ふつうに観ていても心揺さぶられるものが多い本作だが、「人生はかくも醜く辛い」ということを数多く認識してる人にとっては、より琴線にビシビシ触れるものが多いことだろう。
あと余談だが、狂言回しの小道具となる車がなぜサーブ?というのも後半からラストにかけて観てゆくと納得なのだ(笑)
> 浜口監督シナリオのストーリーテーリングは賞賛すべき
この監督の脚本は、すごいですよね。
「寝ても覚めても」「偶然と想像」そして本作と、どれも好きな話ではないのですが、映画としてはどれも好きと言うしかない感じ。それが、凄い