「3時間は必要」ドライブ・マイ・カー しゅなさんの映画レビュー(感想・評価)
3時間は必要
ドライブマイカー
3時間越えの作品
自宅で配信で視聴出来るおかげでテレビ前に飲み物スタンバイでリラックスして見ようと、見始めた…
が、冒頭から引き込まれてそれどころではない。
夜明けの淡い明かりが窓から差し込む高層階の一室で
夫婦の営みと、交わされる不思議な会話。
シンプルで洗練された内装にインテリア、
何一つ無駄な物はないと思えるこの部屋が
この夫婦にとってこの上なく居心地の良い場所。
リビングの大きな鏡がそんな2人の生活をずっと、
静かに見守って来たのだろう。
あの日その鏡に妻の秘密が映り込むまでは…
妻が自分に何を言いたかったのか?
一生解けない謎と後悔を抱える事になった主人公が
もう1人の重要な登場人物(?)である
年代物の真っ赤なサーブを運転してどこかへ向かう。
そして、初めてタイトルが表れるのだけど、
そこまでで約40分。
いつまでも幸せが続くと思っていたのに、妻は秘密を残して突然この世を去った。
主人公の家福は舞台演出家兼俳優。
地方都市の演劇祭に招かれて公演までの数ヶ月を過ごす事になるのだが、その間、専属のドライバーがあてがわれる事となり、家福のサーブが初めて他人に運転される。
このクルマ、2シーターなので後部座席に乗り込むのがいちいちめんどくさい。
ここにも夫婦だけが使い、そしてずっと2人を見てきた車なんだという監督の意図を感じる。
劇中劇と、妻が語った物語と、現実
それらが複雑に絡み合って展開していくのだが、
家福が役者達に棒読みでセリフを読ませるのと同様
家福自身もあまり感情を表に出すことはない。
それはドライバーのみさきも同じ。
どこか同じ匂いをお互いが徐々に感じる様になる。
ネタバレを承知で言う
人は誰もが「キミは悪くない。キミのせいじゃない」
と、誰かに言って欲しいと願っている。
『あの時、こうしていれば…』何かが変わっていたかもしれない。
変わることを恐れて、自分だけが傷つけばいい。
その想いは正しかったのか?
長い旅の終着地を連想させる北海道の雪上で
家福は初めて涙を流す。
その傍らにはみさき。
大きな事件は何も起こらず、淡々と主人公の心の旅が続く。
劇中劇とリンクしながら、静かに静かに
観客の心の奥に染み込んでくる。
こんな作品がアカデミーにノミネートされたのが嬉しい。
ここのところハリウッドを席巻しているアジアンエンターテイメント。
『パラサイト』や『ミナリ』の韓国人監督作品に続いて
今年度は是非、日本人監督に作品賞を取って欲しい。
#ドライブマイカー
#西島秀俊
#濱口竜介監督
#三浦透子
#岡田将生