「巧みな脚本と演出の作品だが、気になる点あり」ドライブ・マイ・カー moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)
巧みな脚本と演出の作品だが、気になる点あり
巧みに作られた物語の構造、そして確かな演出力には関心したし、音楽の使い方のセンスも素晴らしい。3時間の長丁場だが、中だるみするような所もなく、映画を鑑賞できた。最初の40分ほどで何が主人公に起こったか、その状況を見せてからのオープニング、車で妻の声のテープを聴き台詞を言う役者の主人公の行為が、事件前と事件後で意味合いが変わる事や、舞台の台詞と実人生が繰り返し微妙に重なり合うという設定も面白いと思った。韓国通訳の方の家での食事のシーンは心温まる場面だったし、エンディング近くで主人公の人生と演劇が重なり合う場面も美しく見事だったと思う。濱口監督の作品は初めてだったが、確かな力量を持つ素晴らしい作家だと思った。
しかしながら、多分私の好みの問題かと思うが、二点ほど気になる点があった。
一つは主役の西島さんが、運転手の女性と本当に心を一つにする一番大事な場面で泣きの演技をするのだが、彼はそういう感情を吐露するような場面が得意でないと見え、あまり深く心に響くものが無かった。(ここはあくまで私の印象なので、そうは思わない人もいることだろう)
そして、もう一つ、一番気になった所が、あの高槻という若い役者のキャラクターだ。彼はこの物語の中で非常に重要な役割なのだが、劇中である過ちを犯している(というか何度も猿のように同じ過ちを繰り返す。)そして、それにも関わらず、主人公に好意的に近づき、挙句の果てには目を潤ませながら、主人公が他者と分かり合い、自分を見つめるきっかけになる言葉を与えようとする。恐らく彼が主人公に対して心を開き教訓めいた事を言うというのは、物語上感動的な場面なんだと思うが、ここが私は乗れなかった。
主人公が彼自身解決しなければならない問題を心の中に抱えているのは間違いない。それを見つめなければならない事も理解できる。だが、なんでそれを高槻から聞かされなければならないのだろうか?いや、だって主人公苦しんでるのこいつのせいじゃね?まず言うべき事言って、誤るとこ誤ってから腹割って話しろよ。しかも高槻はこの後にわざとなのか、意図せずなのか、主人公にまた迷惑をかける。そしてそれを誤ることもない。
小説を未読なので、確かではないが、この気持ち悪さは恐らく元々の小説の設定を上手く消化できていないところから来るのではないだろうか?なぜなら元の小説ではどうやら二人は長年の親友になった後、この話をしている。映画での関係はそこまでお互いが分かり合えているような状況ではなかった。そのため彼の台詞を聞いている主人公の顔が映るとき、分かり合えたというよりも、「こいつ何様のつもりで俺にこの話してるの?」というリアクションにしか見えない。その点が非常に気になり、残念ながら私は物語の深いところまで感情移入して入り込むことができなかった。