劇場公開日 2021年8月20日

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「幾重に咀嚼できる作品、人間の命題を全うする二人の行方」ドライブ・マイ・カー たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5幾重に咀嚼できる作品、人間の命題を全うする二人の行方

2021年9月8日
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鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

原作未読。そして、初の濱口竜介監督作品。噂では聞いていたが、濃い…。3時間の長尺に耐えられるかの心配を軽々と飛ばし、心地よい映画体験へと誘ってくれた。

これまた批評するには言葉の足りようがない作品。映像的な説得力を兼ね備えながら、実は映画としては真逆のアプローチを踏んでいるのではないか。村上春樹原作なだけあり、言葉選びも容易ではない。それを補うような描写の明瞭さを見せたかと思えば、逆転した見せ方をしてくるような…。まだこれでも濱口竜介監督の中では観やすいと聞いたこともあり、思わずため息が出る。しかし、天才が拡張した空間が覗けるだけでも充分満足し、ある程度の説得力は感じているみたいだ。これを1200円で観たのが申し訳なくなるくらいに濃い。ただ、それを言語化できないのがもどかしい。

キャストも素晴らしい。西島秀俊の新たな表情を見たかと思えば、霧島れいかの美しい声に身を委ね、三浦透子の佇まいに息を呑む。また、岡田将生の不穏な空気に佇む誠実さは作品を強くしている。しかも、戯曲を演じる人というリアリティが同居しており、人の温度に触れていることへの安心感と恐怖が入り交じる。本作で描かれる、人の表裏とその受け手が抱く命題のような尊くも深いテーマを見事に描ききっている。

また、クルマも素晴らしい。長く愛されたサーブ900は二人の虚無感に寄り添い、新たな旅路へと走る。航空機メーカーらしい安定した走行性と頑丈なボディが二人の新たな道標へと誘う。また、高槻の乗るボルボV40にも注目したい。彼の理解し難い寄り添い方がクルマにも現れているとしたら、同じスウェーデンのボルボを選ぶのも納得がいく。彼はそれでも知りたいのだから。こちらは蛇足ではあるが、ヒュンダイ車が出てくるシーン。ネッソという燃料電池車がたくさん置かれているのだが、これが近々日本で販売を始めようとしている。その宣伝も兼ねているのかも…なんて勘ぐってしまう。それほどクルマにも魅力と意味を成しているような映画だった。

これから『親密さ』や『ハッピーアワー』、『寝ても覚めても』といった作品を観れると思うとワクワクしてくる。深い映画体験をより理解できるようになりたいなんて、つくづく思う。

たいよーさん。