「言葉、テキストをめぐる物語」ドライブ・マイ・カー 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉、テキストをめぐる物語
村上春樹の短編集を基にした濱口竜介脚本・監督作品。俳優・演出家である主人公が、妻の不貞現場を目撃したまま、不意に妻を失ったあと、広島での演劇制作と、無愛想な送迎ドライバーとの交流によって、再生していく。
濱口作品は初見だが、作中、演者にチェーホフの「ワーニャ伯父さん」のテキストを、感情を入れずにゆっくりと読ませ、体に染み込ませていく手法は、監督自身の演出技法とのこと。
原作未読なので、どこまで創作要素を入れたのかわからないが、画面上に字幕を映す多言語演劇は興味深いし、韓国手話まで取り入れているのは秀逸。脚本家である妻が語る話、「ワーニャ伯父さん」の朗読テープを含め、言葉、テキストをめぐる物語と言える。言葉の意味ではなく、言葉そのもののやり取りが、互いの感情に作用するというか。言葉すらなく、手振りだけで感情を揺すぶるラストは象徴的。
主人公役の西島秀俊は素晴らしい。三浦透子と西島秀俊が並んで車のサンルーフから煙草を差し出すシーンがいい。難役の岡田将生も頑張っていた。あと光っていたのが、ユナとユンスの韓国人夫婦。妻役の霧島れいかには、もう少しミステリアスさがほしかった。
作品全体として、外国映画のような肌触りで、近いところでは、ジャームッシュの「パターソン」、イランのファルハディの諸作品を思い出した。
主な舞台となった広島と瀬戸内のロケーションも良い。ごみ処理施設のエピソードも。
あらためて原作を読んでから、また味わい直してみたい。
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