「仕事しなければ・・・」ドライブ・マイ・カー kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
仕事しなければ・・・
後半ロードムービーになる所で北陸自動車道の親不知(おやしらず)の辺りが描かれるのですが、高速道路なのに40キロ制限のところがあるくらい断崖絶壁が連なる難所。正式名称は親不知・子不知というのですが、作品のテーマとしてもピッタリくるところでした。ついでに言えば、妻不知も追加できそうです。
チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」が物語の半分くらいを占め、妻を亡くした家福悠介と主人公ワーニャ、専属ドライバーである渡利みさきと優しく慰めるソーニャをそれぞれ対比させるような形で描いてありました。
夫婦のセックスにおいてオリジナル脚本を発想する妻が口頭で夫に伝えるものの翌日には忘れるため、夫が書き起こすという共同作業によって妻もTVドラマの脚本家として成功する。悠介は妻が浮気をしていることを知りつつも黙認。共依存のような、仮面夫婦のような、微妙な関係ながらも愛はたしかにあった。しかも、4歳の娘を亡くしたという互いの傷を舐め合うようなギリギリの夫婦だったように思えた。
広島での演劇祭では以前妻が紹介してくれた俳優・高槻がオーディションに応募してくる。彼の採用に当たっての真意は計り知れないが、結局はかき乱されたり、妻の残した秘密を知るきっかけにもなるのです。家福音がもたらした宿命?高槻との情事をも目撃しながら、そっと家を出る光景には苛立ちも覚えますが、そこで暴力沙汰にでもなろうものなら高槻の粗暴さと同じになったことであろう。幸せだった事実を噛みしめながら、ストイックなまでにチェーホフの演劇に打ち込む姿も痛々しいところがあった。これも妻の語ったヤツメウナギの生まれ変わりという女子高生に投影したためであろうか・・・妻なりのルールを尊重して。
劇のリハーサル、ほぼ本読みの部分でしたが、この棒読み感がすごい。車の中での妻のナレーションによるテープもそうだったけど、この単調さが俳優同士の感情の引き出し、そして自分自身を差し出すことに繋がっている。家福悠介独特の演出らしいのだ。そうした単調さが同乗者に苦痛を与えない、車に乗っていることも忘れさせる。ドライバーみさきの運転テクニックや気持ちも伝わってくるのです。
最も印象的なのは多言語演劇という手法。言葉、人種の多様性や文化の違い、寛容な心。他人の生き方を否定しない悠介のポリシーそのものだ。英語、韓国語、北京語のほかに手話を駆使するユナ(パク・ユリム)の存在が大きい。彼女の表情にうっとりしてしまうが、最後にはまるで日本語で語りかけてきた印象も残ってしまった。
妻のひみつという部分では、女子高生の空き巣が家人が帰ってきたと思わせておいて、その続きを高槻が知っていたことの衝撃。そしていきなりの主役欠員・・・喪失感から前に進まなければならないとき、ドライバーみさきの経験した告白とともに自分を見つめる旅に出るのだ。
空き巣のストーリーではキム・ギドクの『うつせみ』を思い出してしまったし、ロードムービーでは『幸福の黄色いハンカチ』かな。頬の傷を消したくないと言ってたみさきだったけど、韓国では傷を消していたし、犬も連れていた。同じSAABだったし・・・鬱屈しているだけじゃダメ!ちょっとだけ前向きになれる作品でした。個人的には運転手の鑑だとも思った。ただし、全体的に不要な部分もあり、冗長だったためちょっと減点。サンルーフから手を伸ばしてタバコを吸ってたシーンのイメージが消え去りそうなくらい長かったです。
コメント失礼いたします。
考えの尽きない映画でした。
今更で申し訳ないのですが、2月にDVDを予約してこの映画を
観ました。
kossyさんに読んで頂けたら嬉しいです。
kossyさんコメントありがとうございます。三浦透子さん、凄いですね。日本アカデミー賞では新人賞。いやベテランだろ。
そちらは流石に雪解けですか?
しかしまだまだ寒いです。どうかご自愛下さい。
kossy様コメントありがとうございます。いやあ相変わらず深いレビュー。あのサンルーフから伸びた二本のタバコ。サーブは音の思い出であり。四六時中、音の声が流れている。つまりサーブは音そのものであり。車内喫煙はご法度。それにサヨナラを告げた。そう解釈しました。
なんか真面目に返信してしまいました。なんか取って欲しいです。
平坦な運転、平坦なカセット録音、平坦な本読み・・
その後に起こるささやかな動きを際立たせるための序奏、そして最高の演習だったと思いますねー。
〉妻知らず
とは知らずにあの道を(高速も8号線も)6年間走りました。
ほら、覗いて見て下さい、
崖の下に落っこちてるのが きりんだと思います(笑)
Takagakiさん、コメントありがとうございます。
その意見とても面白いです。
俺は素直に主人公が亡くなって、その車をもらい、数年経ったから、みさきの心も変化したものだととらえました。
でも、すべてが彼女の空想の世界とも考えられますね~
それだけ色んな意見が飛び出すというのも良作の証かと思います。
ラストにみさきのほほのキズなかったですよね。
だから北海道の話も全部ウソなんじゃないかと思いました。
広島でもあの韓国人夫婦と一緒に生活していたんじゃないかと。だから夕食時にも犬がなついていたし。ドライバーとしての信頼感もあったんじゃないかと。
あの韓国人夫婦の娘説はないですかね(考え過ぎか)。
あ、確かに。ロシア語わかんないから字幕読んでました。自分が知ってる言語を話す役者だけ贔屓にするのは残念だし演技下手かも知れないし…。手話の台詞も字幕読んでましたが、彼女の演技は良かったです。自宅で夕食ご馳走になって彼女のことがテーマになったからかもしれないし、表情と目が良かったからかも知れない。
おはようございます。
”韓国では傷を消していたし、犬も連れていた。”
今作、全てにおいて秀逸で、暫く余韻に浸っています・・。
Kossyさん。今日も、運転、ご安全に。では。
kossyさんの棒読みに対するレビュー、そっかーと思いました。最後の韓国の場面、本当は釜山で撮影のつもりがコロナでダメになって、広島となったことと関係あるのかな?と思いました。
冗長と言いながらも、どのポイントもしっかりと押さえてのレビュー。
相変わらずお見事です。
私なんかは原作に引き摺られて映画オリジナル部分の大事な点を結構見落としてるように感じてます。