「とにかく観てちょうだい、的な?」ドライブ・マイ・カー CBさんの映画レビュー(感想・評価)
とにかく観てちょうだい、的な?
----- 2022/3/12 追記 -----
日本アカデミー賞受賞を知って。つぶやき。
作品賞、監督賞、新人俳優賞、脚本賞、撮影賞、照明賞の受賞、おめでとうございます。ただ、主演男優賞だけは自分にはピンときませんでした。この映画に西島さんがピッタリだったことは、自分も全く違和感ありません。それは見事なものでした。
ただ、それは西島さんのいつものあえて言えばワンパターンな演技にこの映画の雰囲気がピッタリだったと自分は感じる。いわば「配役の妙」だと。だから、もしこの賞が、俳優の力を評価する賞であるなら違和感あるなぁと思った次第。俺の勝手な感想です。
まあ、(俺が大好きな)ありのままの演技の黒島さんも、「カツベン」で新人賞もらってるし、俳優賞は、俺が考えるような基準じゃないのかもしれないなあ。
----- 2022/2/21 追記 -----
これから観る方へ
本作を観る上で、劇中劇である「ワーニャ伯父さん」のあらすじを知っておくと、そこはかとなくお得です。
劇中劇という言葉がピッタリ。本編と重なりあってます。主人公とドライバーが最後にたどり着く気持ちと、劇中劇の主人公ワーニャと姪のソーニャがたどり着く気持ちは、重層しあってます。ぜひあらすじを知っておいて得した気になってみてください。
<登場人物>
ワーニャ:"教授" の前妻の兄。ソーニャの伯父さん。妹の結婚相手の "教授" の才能を認め、妹が亡くなった後も、"教授" の財産である領地を維持管理することで、彼の才能を支える一端を担ってきたと自負している中年男性。"教授" の若き後妻エレーナに心惹かれている。
"教授" 年老いた大学教授。ワーニャの妹の夫だが妻と死別した後、若き後妻エレーナと再婚している。
エレーナ:教授の若き後妻。
ソーニャ:教授の娘(前妻との子)。伯父のワーニャと一緒に教授の領地家屋を守っている。
アーストロフ:エレーナに心惹かれている医者。
<あらすじ>
ソーニャ、アーストロフ、人妻エレーナの三角関係に年齢が離れているワーニャまで絡んで、恋愛感情を中心に話が進む。
ただし、ワーニャが、「"教授" には才能があると信じたからこそ自分の人生を捧げてきた」と思い続けてきた "教授" に不信感を抱いた結果、起きる最後の事件が中心。
街に住んでいた "教授" 夫妻が、教授の退職で戻ってきた領地の家が舞台。
ワーニャがエレーナにつれなくされ部屋を出て行ったり、ソーニャがエレーナを通じてアーストロフ医師への思いを打ち明けてふられたり、アーストロフがエレーナに「ずるい」と詰めよってキスをしたり、そこへワーニャが現れたりしている。
そんな中で、"教授" はこの領地を売り払いうことを提案する。ワーニャは長い間汗水垂らして "教授" を支えてきた自分とソーニャを蔑ろにするものと激昂し、怒りを募らせて部屋を出ていく。教授はワーニャと和解するべく彼の後を追う。部屋に残ったソーニャにピストルの銃声が聞こえる。教授を追ってきたワーニャはピストルを撃つが、弾は当たらない。絶望したワーニャはピストルを床に投げ捨てて椅子にへたり込む。
最終幕では、教授とワーニャが和解の言葉を語り、教授夫妻は新たな移住先に旅立ち、みなもそれぞれ帰る。残ったワーニャとソーニャはたまっていた仕事に取り掛かる。つらい胸のうちを訴えるワーニャにソーニャが優しく語りかける。「仕方ないわ。生きていかなくちゃ。長い長い昼と夜を。そしていつかその時が来たら、おとなしく死んでいきましょう。そしてわたしたち、ほっと一息つけるのよ。おじさん、泣いてるのね。でももう少しよ。わたしたち一息つけるんだわ」
(Wikipedia から抜粋引用)
----- ここまで、2022/2/21 追記 -----
俳優で演出家の主人公が、幸せに暮らしていた妻が急死した喪失感とある疑念を抱えたまま、広島での演劇で演出を担当する。そこで出会った、厳しい過去を抱えた女性運転手と少しずつ交流していく話。
なんとも不思議な感じ。179分ある本作を観終わると、ほんとうに心に残っている。それなのに、どこがどう、と言うのをうまく言えない。主人公と妻の関係、主人公と運転手の関係、それをじっと観ていく映画って言えばいいのかな。それが、とにかく心に残る。
妻の表面的な事象は主人公が考えていたとおり。しかし、妻が語った奇妙な、空き巣の話。そして、主人公が演出するチェーホフの劇の主演男優から聞いた、空き巣の話のその後。それを聞いて、主人公は妻の内面、考えていたことを感じ取る。それを観ている自分たちも感じる。不思議な雰囲気の中で、主人公といっしょに気づいていく。
少なくとも言えることがひとつある。演劇の演出家で俳優でもある主人公が作る演劇は、すべての出演者が台本通りに話すことを徹底的に強要する。本読みの時間を長々と続け、ある段階までいかないと立ち稽古に入らない。なんて偏屈なスタイルなんだと、最初は感じた。しかし、進むうちに登場人物の俳優たちと同じ感覚で、このスタイルの価値について気づいていく。それはまさに疑似体験だった。
運転手と少しずつ交流していく、と書いたが恋愛ではない。ストーリーの中心に妻の浮気疑惑が置かれているのに、観終わった感じは、なんとも透明感があるものだ。たしかに、みんなに観てほしい。
この映画の凄いところは、上記のように、観ているこちらが本当に映画の中に入り込むところじゃないか。「観た」というだけでなく「体験した」という感じが強かった。その中で、愛する人との関係はどうあるべきか、どう生きるべきか、みたいなことを深いところで伝えてくれた気がする。
う~む。やはりうまく書けないけれど、自分はこの映画にずいぶん心酔しているのだ。
おまけ
時間的にちょうど真ん中位に入ってくる、キャスト・スタッフの紹介ロール。これは新鮮だった。劇場の中には「え、これで終わり?」と勘違いした人もひとりくらいいたんじゃないかな。振り返ってみれば、あそこが第1部、第2部のちょうど境目といったところだったんだなあ。
----------- ここから後は振り返りと印象に残ったセリフなのでネタバレです。ご注意ください。 -----------
妻の音が話そうと決意した言葉を聞こうとしなかった(聞くのが怖くて帰れなかった)主人公。一方、地滑りで潰れた家から自分だけ這い出し、母を救わなかったドライバーみさき。
「音さんはすべてあなたに見せている。それを(気づかなかったフリをせずに)そのまま受け入れられませんか」と問うみさき。音の行為を知って激しく傷ついたためにありのままを受け入れられなかった自分だったことに気づく主人公。
それは主人公にとってのエンディングであり、かつ再び歩き出すスタートでもあった。
ワーニャ役を演じることを、「チェーホフ(が書いた戯曲)は怖い。それを演じることは自分をテキスト(=脚本に)差し出すこと。僕は自分を差し出すことができなくなったから、もう演じられない」と頑なに断っていたそれを受け入れ、代役として演じることが、再び歩き出した主人公の第一歩だった…
ドライブマイカー。自分の人生を運転していく。自分だけの人生を大切に生きていく。自分に正直になるということを、さりげなく語る映画。
「沈黙は金です。官女の言葉を知りたくて手話を学びました。私以外、誰も彼女を支えられないと思いました」
「伝わらないのは普通のこと。でも、見ることも聞くこともできます。この稽古で大切なことは、そっちでは?チェーホフのテキスト(脚本)が私の中に入ってきて、私を動かしてくれる」
「本当に他人を見たいと思っている?自分自身をまっすぐに俯瞰し、見つめることしかないんです」
「帰れなかった、帰ったらもう前の俺たちに戻れないと思った。(しかし)もしもう少し早く帰っていたら、とそう考えない日はない」
「君は母を殺し、僕は妻を殺した。でも君のせいじゃない、君は何も悪くない」
「僕は正しく気づくべきだった。本当をやりすごしてしまった。だからぼくは妻を失ってしまった、永遠に。いま、それがわかった。(妻に)謝りたい、僕が耳を傾けなかったことを。もう一度だけ話がしたい」
「生き残った者は辛いんだ。死んだ者のことを考え続ける」
「生きていくしかないの。生きていきましょう」
「僕や君は、そうやって、長い長い日々を生きていかなくちゃいけない」
「真実はそれほど恐ろしくない。一番恐ろしいのは、それをしないでいること」
コメントありがとうございます。
芥川賞と直木賞の例え、思わず唸ってしまいました。両監督とも映画ファンにはいまさらなくらいの名監督◦名脚本家ですが、世間一般的には、あまり知られていないのが、なんだか悔しいような淋しいような…
私の職場では、
金曜日は映画見るから残業しないよ❗️
といっても、土日があるのになんで?
という反応が多くて、なかなか分かってもらえないのも、なんか張り合いがないというか…
CBさん、フォロー有り難うございます。『ワーニャ伯父さん』、映画を観た後に読みました。仰る通り「観る前に読んでおけば良かったな」と思いました😅岡田将生も仰る通り若いに似合わず演技力のある俳優さんだと思っています。ただ余りにも感情移入出来ない役柄で(逆に言えばそう思わせる程の好演だった、と言えるかも知れませんね)。では、よろしくお願いします。
CB様、コメントありがとうございます。あんなに長い追記を読んで頂き多謝です。またワーニャ伯父さんの詳細もありがとうございます。アカデミー賞の発表、楽しみですね。
CB様コメントありがとうございます。いや凄まじい記憶力。また蘇りました。多分ですがこの映画は行間を読む映画。全部が腑に落ちる訳じゃない。だがそれがいい。
なんかいつもふざけたレビューでごめんなさい。