「正しく傷つけない男たち」ドライブ・マイ・カー グレシャムの法則さんの映画レビュー(感想・評価)
正しく傷つけない男たち
単行本で約60ページほどの短編をどうやって3時間の映画に仕上げたのだろう?
そんな疑問を持ちながら映画館へ。
「ドライブ・マイ・カー」という作品は『女のいない男たち』という全部で6編の短編からなる単行本に収められていますが、映画はあと二つの短編「シェエラザード」「木野」からも素材と着想を得ていました。そして、広島での演劇祭という原作には無い設定やこれもまた原作には無いみさきの生まれ育った村へのプチロードムービー的な要素を織り込んで構成されています。
村上春樹さんのファンでなくとも、この短編集を読んだ人にとっては、かなり満足度の高い素晴らしい出来上がりだと、私は思いました。
男女関係における困難に直面した時、多くの場合、男は自分が傷付くことをおそれ、現実逃避を選ぶ。
女性の言動の理解できない部分(浮気も含めて)について、自分が納得出来る合理的な理由を求める。
本当には納得できなくても、相手が金持ちだから仕方がない、みたいに〝自分の負け〟を認められる理由が欲しい場合もあると思います。
本当は大事なことを言ってるつもりなのですが、自分の表現だと安っぽいですね。
なので、一部原作から引用します。
「木野」という短編の中に、映画で使われた部分も含めてこんな文章があります。
『おれは傷つくべきときに十分に傷つかなかったんだ(中略)。本物の痛みを感じるべきときに、おれは肝心の感覚を押し殺してしまった。痛切なものを引き受けたくなかったから、真実と正面から向かい合うことを回避し、その結果こうして中身のない虚ろな心を抱き続けることになった。』
映画も文学も人それぞれが好きなように受け止め、自由に想像力を働かせればいいと思ってますが、その素材というか元ネタとなる映画や小説を共有する人が多ければ多いほど嬉しいのは紛れもない事実です。
映画を観る前であろうが、観た後であろうが、ひとりでも多くの方がこの原作本を読んでいただけることを祈ってます。
※原作に出てくる車は、黄色のサーブ900コンバーティブルです。実際に調達するのが難しかったのか、何かの意図で赤いサンルーフにしたのかは不明です。
そういえば、この濱口監督(竜介)も、稀代のストーリーテラーですね。「寝ても覚めても」「偶然と想像」観ましたが、本作も含めどの作品も「主人公に全く感情移入できないのに、画面からずっと目が離せない」という不思議な体験の連発です。
好きな監督で言えば、今泉監督もまた、稀代のストーリーテラーだと思ってます。濱口監督が芥川賞なら、今泉監督が直木賞って感じてます!!
勝手なことばかり書いて、失礼しました。
グレシャムの法則様、馬鹿みたいに長い追記を読んで頂きコメントを頂くとは望外の喜びでございます。多分ですがこの映画は余白が多いんですよ。ずっと考えてしまいます。まあ単純に好きな映画ということです。クリストフさんから教えて貰ったんですが「さよなら くちびる」と同じ撮影監督らしいす。繋がりますね。
わかりました。「海辺のカフカ」以外ですね。読んでみます。
本日2度目の鑑賞。
舞台ラストの手話でのたたみかけは、映画史に残るといっても過言ではないほど深く沁みてきます。100年以上も前の作品なのに、『それでも人間は生きていくしかない、あの世に行ってから神様に憐んでもらいましょう』なんて、今と何が違うんだろう。誰かに何かを語りかけることができるとしても、結局は同じようなことしか言えない気がします。
今の自分が偽りなのか本当なのか分からない…人はいつも〝今の自分〟を演じているということになるのだと思います。
グレシャムの法則様コメントありがとうございます。
「さよなら くちびる」は大好きな映画なんです。音楽映画でありながら微妙な三角関係。
それで気づいたんですが、演劇のバックステージでありながら微妙な三角関係。音を中心に。
終盤に岡田将生が 音 の語った、話しをするんですが・・・音と関係があったと言う事ですよね。いや、うまいなあ。
あの劇中車=スウェーデンのSAABは、無骨さと堅実さ、そしてお洒落度が好きで、僕が40年前に西武自動車からカタログを取り寄せた車でもありました。
懐かしさで一杯🎵
ボルボと共通部品も多いので維持はそんなに大変ではありません。
黒リネンさん、ありがとうございます。
原作では、冒頭に家福からみた女性全般の運転に対する落ち着かなさが語られていました。男には当たり前のことが、女性が無造作にハンドルを握っているだけでどこか不安定化させられる。そんなことの象徴のようにも思えました。
ただ、心に傷みを抱えて生きてきたみさきにはそれがない。そんなみさきの人間性をドラマのひとつの軸としたい。
ロードムービーの部分にはそんな思いもあって、多くの方の印象に強く残ったように思います。
グレシャムの法則さん。
初めまして。
初見でこの映画が理解できず原作を読んだ者です。短編集素晴らしかった。個人的には木野の展開は本当に驚きました。凄い!映画が脚本賞受賞も納得しました。
ただロードムービー、カセットテープ、浮気を否定しない、ワーニャ伯父さんが前に出過ぎているため、女のいない男たちの男心より、そちらに目がいってるレビューが目立っている様に感じました。もちろん楽しみ方は自由ですし、別視点からも楽しめたことは素晴らしいのですが、個人的にはできれば村上春樹さんのメッセージを評価しての★4になってもらいたかった。
少しだけがっかりしています。
みさきを含めた3人のシーンにする意図から、あえてハッチバックにしたんだと思います。みさきが秘密を知る事は、北海道のシーンにつなげるために必要ですよね!
グレシャムの法則さんへ
SAAB900カブリオレですよね。車体色にこだわらなければ、調達困難と言うほどにレアではないです。が、カブリオレの後席は、無茶苦茶狭いんです。後席に大人2人が乗車するのは辛いですよ。原作には、あの場面はあるのでしょうか?
グレシャムさん、「ワーニャ伯父さん」読んで実は一番面白かったのは、「人新世の資本論」的内容を医者が熱く語っているところでした。チェーホフの時代に既に!とびっくり感動ものでした。
チェーホフの「ワーニャ伯父さん」読んじゃいました。この戯曲でも最後のソーニャの台詞が圧巻で胸に響きまくりました。ソーニャは不美人設定なんですね。医者にふられてしまうし、ワーニャはエレーナにふられるし。家や親戚のなんやかんや含めて、失意とか悲しいこと切ないことたくさんあるけど、生きていきましょう。そして神様に言いましょう。
度々。
映画を観て、好きになったアーティストは数知れず。最近では、ビリー・アイリッシュの『世界は少しぼやけている』を見て、彼女の存在は知っていましたが、鑑賞後、ファーストとセカンドアルバムを速攻で買いました。車内で、ヘビーローテーションで流れています。
映画って、見た後に色んな文化への興味を掻き立てられるところも、素晴らしいと思っています。文化伝播の架け橋ですね。では、又。
今晩は
私は、仰る通り、車で観に行く事が殆どですが、ロックを聴きながらですね。行きはロック(先週の「Summer of 85」は、当然、”The Cure”の『The Head on the Door』を爆音で。)で、帰りは今作の場合には、余韻に浸るため”The Durutti Column”の『LC』を・・。ちょっと、気障ですね・・。では。
こんにちは、
そうですね。こうした、映画で時間の経過は2年後とか、表現に限界がありますけど、あの広島から北海道までの旅を付け加えることによって、なんらかの変化を感じ取るって効果もあるかと思いました。
グレシャムさん、コメントありがとうございます。私も皆さんのレビューとコメントを読むのが楽しいです。鑑賞後の自分は、ひねくれ者の時もあるしバカみたいに喜んでいることもあるし時間をおいて再度鑑賞して感動したり知らなかった~!の連続だったり。だからグレシャムさんにもいつもありがとう!です。
シェヘラザードかー、であれば次が聞きたくなりますよね。アラビアンナイトは私は大好きです!ハルキの原作も読んでいず色々勝手なことを書きましたが、グレシャムさんのレビューとコメントで、作品の輪郭と観客が自由に想像していい部分が自分なりに見え始めてきたかもしれません。ありがとうございます!
私の知り合いでも離婚とか裁判という具体的な形に持っていくのは、決まって女性側です。男の方は先送りと既成事実の積み重ねで、もう結論は出てるよね、という状況が来るのを待つ、という感じの人が多い。暴力を振るうDV野郎もある意味、自分の恥ずべき点が言葉で明瞭になるのが怖いという潜在意識もあるのだと思います。自分に非があることが決定的になるのを見るのが、どうしてもできない。この期に及んでもまだ許してもらえるんじゃないか、とさえ本気で思っていたりする。私自身否定できません。
グレシャムさんのレビューでなんとなく思ってた男の人ってこんな感じかも、と思った理由がわかった気がします。傷つきたくない、逃げる、正視できないってことでしょうか。ハルキ、苦手なのは常にそんな空気が彼の作品に漂っていると(自分がある時期から)思ってるからだと思います。
グレシャムの法則さん、コメントありがとうございます。
細かな点はまだいっぱいあるのですけど、結局不要なところとも一致するかな~てな感じで。
冒頭の交通事故とか緑内障とか、いらん!
短編集なりに他の作品とリンクしてるんですね…読んでみたい。
まぁ、親不知子不知なんて気づいたところで、ちょっと優越感に浸りましたw
美紅さん、ありがとうございます。
みさきは「口数が少なくて何を考えているか分からない人」ではなく、「ぶっきらぼうで無愛想な人」。
実社会ではなかなか見分けるのが難しいですが、信頼関係を築ける人のひとつの類型かもしれませんね。
少なくとも「饒舌でやたらと愛想のいい人」よりは。
今晩は。
SAAB900は、原作では黄色で違和感がありませんが、映像化すると赤にして良かったかな・・、と思いました。特に後半の雪原を走るシーンなど。
余韻に浸れた映画でしたね。
“木野”ともう一編の同短編集収録作を参考に膨らませ、アーニャ叔父さんを大胆に盛り込んだ構成には、唸らされました。では。
グレシャムの法則さん、こんにちは!コメント、原作のこと教えて頂きありがとうございました。男性にとって女性は神秘的なんですね。特に音はとても美しくて神秘的でした。
1日経っても本作の余韻から抜け出せずにいます、、、笑 原作読んでみますね!