劇場公開日 2021年8月20日

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「不思議な空気感」ドライブ・マイ・カー おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5不思議な空気感

2021年8月26日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

先週末は特に観たい新作がなく、たまたま上映時間の都合がよかった本作を鑑賞してきました。事前情報をいっさい入れずに行ったので、冒頭から流れるいつもの見慣れた作品とは異なる雰囲気に、やや違和感を覚えました。しかし、ほどなくこれが舞台演劇の醸し出す空気感だとわかり、徐々に浸ることができました。もっとも舞台演劇を鑑賞したことがないので、想像でしかありませんが…。

そんな独特の雰囲気を作り出しているのが、車内でカセットテープから流れる、やや無機質な音声。それとオーバーラップするかのような現実の流れ。しかも、それが重なっているような、いないような絶妙な台詞回し。そんな実在の戯曲と重ねられた脚本を、序盤は霧島れいかさん、中盤は岡田将生くん、終盤は三浦透子さんがグイグイ引っ張ります。この三人が西島秀俊さんとのやりとりで見せる演技が、三者三様ですばらしかったです。

特に大きな事件が起きるわけでもなく、淡々と流れるストーリーなのに、なぜか目が離せませんでした。夢中になって観ていたというより、気づけば浸っていたというような不思議な感覚でした。途中で、演劇論や人生哲学的なくだりがあり、難しくて理解できない部分もあったのですが、それさえ心地よく感じてしまいました。

最も印象的だったのは、ラストの家福とみさきのシーン。このシーンのためにここまでに長い時間をかけて二人を描いてきたのかと、ここで一気に収束するような感じがしました。みさきが語る過去から、彼女の人柄や人生観が伝わり、家福も自然と自分と向き合っていきます。人は矛盾に満ちた生き物で、それを他者が論理的に理解できない。そもそも自分を理解するのも単純なことではない。さまざま飲み込んで生きていくしかないが、そこにあるのは絶望ばかりでもない。二人のやりとりを観ながらそんなことを感じていました。

ただ、自分にはちょっと難しい作品でした。普段ほとんど読書をしないので、村上春樹さんの作品にもロシア文学にも疎く、本作を十分に味わえなかった気がします。特に劇中劇の内容がさっぱりわからなかったのは致命的でした。他のかたのレビューを参考にして、機会があればまた観てみたいと思います。

おじゃる