配信開始日 2020年11月27日

「BTTFへの愛憎入り乱れたリスペクトを滲ませながら『ハッピー・デス・デイ 2U』とは全く別次元の境地に着地する凶悪極まりない韓流スリラー」ザ・コール よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0BTTFへの愛憎入り乱れたリスペクトを滲ませながら『ハッピー・デス・デイ 2U』とは全く別次元の境地に着地する凶悪極まりない韓流スリラー

2021年12月21日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

幼い頃に父を火事で亡くして母と二人暮らしのソヨン。脳腫瘍を患っている母の手術費は1億ウォン、娘にそんな高額な医療費が払わせるわけにいかないと気遣う母はお父さんのお墓の管理人に自分の埋葬場所の相談をして来て欲しいとソヨンに懇願するが、ソヨンは母にこう言い放つ・・・「お父さんの隣で眠る資格があると思ってるの?」と。独りで実家に戻ったソヨンは帰宅途中に携帯をどこかに忘れてしまったことに気付き自宅の電話から自分の携帯に電話をかける。拾い主が電話に出たものの謝礼について話をしたいのでかけ直すと一方的に切られてしまい途方に暮れているところにまた電話が鳴る。それは見知らぬ女性からの助けを求める電話。ヨンスクと名乗るその女性は霊媒師の母に虐待されているのだと告げるが、彼女が軟禁されている家は自分の実家と同じ住所、しかもそれが20年前であることを知り驚くソヨン。自分達が引っ越してくる前にその家に起こった忌まわしい事件をネット検索で知ったソヨンはヨンスクを助けるために奔走するが・・・。

もうこのツカミだけでお腹いっぱいになる禍々しさですが、これが実は刺身のつまほどの意味もないというのがこの作品の恐ろしさ。ここからの展開がもう容赦なさすぎて以降唖然として口が開きっぱなし。元々は2011年のイギリス産スリラー『恐怖ノ黒電話』という作品を原案にしたとのことですけど、そっちの予告を観る限り一部の描写に共通点はあるもののほとんど別の話になっている様子。ほぼド田舎の一軒家が舞台という点で『ドント・ブリーズ』、電話での会話が物語を転がすという点で『フォーン・ブース』、『セルラー』、『コネクテッド』、『ザ・コール 緊急通報指令室』、『THE GUILTY ギルティ』といった作品との共通点があり実際影響下にあることは明白ですが、本作と比較するべき作品は『ハッピー・デス・デイ 2U』。全然ジャンルが違うはずの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への惜しみないリスペクトと強烈なアンチテーゼを同時に刻むことでスラッシャーホラーというジャンルの壁を軽々と飛び越えた傑作中の傑作ですが、本作にもそんなリスペクトとアンチテーゼが濃厚。しかしそのアンチテーゼのベクトルが全然別方向、全く出口のない絶望を向いているので結末も全然異なるものになっています。ヨンスクがソヨンに告げる一言でその絶望が底を打ったかのように一瞬見えますが物語はその先の先まで見せつける。その凶悪さに背筋が凍りました。田舎の閉塞感と超常現象を並列に置いた『The Witch 魔女』にあった切り立った絶望よりもさらに奥へと軽やかに突き進むかのような終幕は、絶望とは選択肢が全くないことと同義であるが、逆に言えば選択を迫られる抑圧からの解放も意味していて本来そこにあるべきではない爽快さがそこにあることに何ら違和感がない。その恐ろしさも一瞬で大脳に叩き込まれます。要するに恐るべき傑作スリラーがまた一本増えたということです。

端役に至るまで演技陣の豊かな演技力に舌を巻きますが、特にソヨンとヨンソクを演じたパク・シネとチョン・ジョンソの人間の純真と邪を絶妙に演じ分けた熱演の余韻がいつまでもあとを引きます。韓流映画製作陣の底力をまたしても見せつけられて絶句しました。

あと一瞬ですけど、私が世界一美しい映画だと考えている『ぼくのエリ』へのオマージュを滲ませたカットもあって、物凄く怖い映画なのに感動して泣いてしまったことも書き添えておきます。

よね