「同性愛と差別をテーマとして描き続けたライアン・マーフィの最高潮!!」ザ・プロム バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
同性愛と差別をテーマとして描き続けたライアン・マーフィの最高潮!!
Netflixとしては2020年年末して、最大級のエンターテイメント作品である。Netflixとライアン・マーフィはパートナー関係を結び、『ハリウッド』『ボーイズ・イン・ザ・バンド』を製作しきたわけだが、これこそが最高潮といってもいいだろう。
Netflixは『ジングル ジャングル ~魔法のクリスマスギフト~』などミュージカルに力を入れてきたわけだが、これで映画同様のクオリティのミュージカルを作ることができるという基盤が強固なものとなり、今後は多くのミュージカルネタを持つDisney+やNBCのミュージカルライブに対抗すべく、ミュージカル映画製作に積極的に着手していくだろう
2016年に初演された比較的新しいミュージカルということもあって、テーマ性は現代的である。舞台版自体が10代の同性愛というテーマ性からして、同様のテーマを扱い、世界中にカミングアウトする勇気をもたせた、ドラマ『glee』に影響を大きく受けた作品でもあるだけに、それを『glee』のクリエイターであるライアン・マーフィが映画化するというこのも不思議なものだ。
今作はもともとアジア系のオークワフィナがキャスティングされていたように、様々な人種のキャラクターが登場し、人種差別という点では、あまり扱われていないように思えるかもしれないが、親世代は正に人種差別を受けてきた世代でもあるのだ。更に遡れば、奴隷制度といった、もっと酷い差別もあっわけであるが、親世代というのが、1970年代なのである。
キング牧師やマルコムXらによって、1950年~60年代にかけて行われた公民権運動によって黒人が人権を得たといっても、それまでにあった差別意識というのは、簡単に消えるようなものではない。世間の動きと人々の意識は必ずしも比例しないということを受けて成長してきたのが現代の親世代なのだ。
今でこそ同性愛への理解はされるようになったものの、まだまだ世間の目は厳しい。それは人種差別も同じで、どんな影響力をもった人物がいたとしても、人々の概念として根付いてしまっているものを取り除くのは難しい。それを知ったうえで、あえて生きづらい環境に飛び込む子供たちに厳しくあたるというのは、わからなくもない。
嫌がらせではなく、子供達のためにという意識という点では、同じ子供を愛する者の立場ではあるのだが、結果的にそれも差別につながってしまって、差別が残ってしまう。
時代の変化と未来への希望を10代、20代に託してみたいという人達がいるのも事実。デリケートな問題ではあるが、このデリケートな互いの境界線を埋めるのが音楽や芸術であり、それが一体化したミュージカルというものが昔からやってきたことである。
またインディアナ州が舞台ということも大きな意味がある。インディアナ州では2015年に新たな法律として、「宗教の自由を回復する法律」というのができたのだ。これによって「宗教上の理由」でと言えば、同性愛者に締め出すことが可能となってしまったのだ。
劇中でも学校内にはキリスト教信仰者の生徒たちが多くいるため、宗教上の理由で同性愛を差別しているという者もいるわけだが、それなら「離婚」「タトゥー」「処女」も教えには反している。都合の良いことだけ、宗教を理由にしていないかという矛盾点も指摘しているのだ。
時代は変わっていくのに、歪んだ価値観や概念が邪魔をしているが、ただ好きなった相手か同性であったというだけのことで、シンプルに人が人を好きになっただけということではないかということを訴えている。
昔から同性愛と偏見、世間の評価と闘ってきた象徴としての役割をミュージカル俳優達が果たしているのもおもしろい設定である。
メリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデンといったミュージカル映画に多く出演している俳優の起用も見事ではあるが、注目してもらいたいのは、もともと決まっていたアリアナ・グランデの代役としてアリッサ役に選ばれたアリアナ・デボーズだ。
アリアナ・デボーズは、ドナ・サマーの伝記ミュージカルやDisney+で配信された『ハミルトン』にも出演しており、スティーヴン・スピルバーグが監督を務めたリメイク版『ウエストサイド・ストーリー』では、アニータ役を演じなど、今後の活躍が期待できるミュージカル女優である。
ベテラン陣も見事だが、アリアナ・デボーズの存在感と歌唱力にも注目してもらいたい。
今作で残念なことは、これこそ劇場で観るべき作品だということだ。日本では一部の劇場で上映されているし、今後遅れて公開される地域もあったりするが、機会があれば劇場で観てほしい。