「奇妙で可愛らしい小世界を巧みに彩った幻想譚」マーメイド・イン・パリ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
奇妙で可愛らしい小世界を巧みに彩った幻想譚
夜な夜なパリの川辺では不思議なことが起こる。おそらくこれが東京やニューヨークやロンドンだと全く成立しないのだろう。パリだからこその幻想譚。怪奇性と童話性を絶妙に混ぜ合わせたストーリー、カラフルな色遣い、キャラクターがなぜかしっくりくる。また、大風呂敷を広げすぎない設定に好感が持てる。そうやって世界観をしっかりとコントロールしているように思えるほど、本作は切なくて独特で、可愛らしい。そうそう、音楽やダンスといったパフォーマンスも魅力の一つ。素晴らしい芸術は人の心を根こそぎ奪うものだが、ここでは美しい人魚の歌声が文字通りに人間の命を奪う。そんな感情と結果があらぬ角度で結びつくところも面白ければ、愛を失った主人公がその特性ゆえ彼女の歌声や想いを逆にしっかりと受けとめることができるのも捻りが効いている。どこもかしこも奇妙なことばかり。だが、裏を返せば実にストレートなラブストーリーなのかもしれない。
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