「設定は「人魚姫」でテイストは「アメリ」」マーメイド・イン・パリ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
設定は「人魚姫」でテイストは「アメリ」
そもそも人魚は、ホメロスの「オデッセイア」に登場し、18世紀になるとアンデルセン童話の「人魚姫」として広く知られる悲恋のヒロイン。陸に上がったマーメイドが人間の男と恋に落ちるが、やがて彼女は海に帰らなければならないという設定は、多くのアーティストのクリエイティビティを刺激。ロン・ハワードはダリル・ハンナとトム・ハンクスでファンタジーラブコメの「スプラッシュ」を作り、ディズニーはアニメ・ミュージカルの「リトル・マーメイド」(実写化も決定)を製作した。共通するのは夢と恋と笑いだろうか。しかし、このフランス映画はちょっと違う。マルチアーティストとして活躍するマチアス・マルジウ監督は、その歌声で男たちを死に至らしめてしまう人魚と、失恋の痛手から2度と恋はしないと決めたウクレレ奏者の男を主人公に、ままならない恋愛の奥義をフランスのエスプリをたっぷりと含ませて描いている。シチュエーションは「人魚姫/ファム・ファタール版」で、テイストは「アメリ」。特に1950年代を意識した美術と、監督自身が作曲した音楽が目と耳に刷り込まれる。コロナ禍の影響でパリでは公開後わずか3日で上映打ち切りとなった本作が、日本では少しでも多くの観客の目に触れて欲しい。今こそ、人々はファンタジーを欲しているのだから。
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