劇場公開日 2021年2月11日

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「主人公と半人半獣の異種恋愛の物語類型をなぞるが、ポップでキュートな仕掛けはさすがフランス流」マーメイド・イン・パリ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0主人公と半人半獣の異種恋愛の物語類型をなぞるが、ポップでキュートな仕掛けはさすがフランス流

2021年2月11日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

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広く捉えるならギリシア神話や日本神話の頃からある「異類婚姻譚」の一種だが、近現代の社会に人魚が現れる実写映画に限定するなら、アンデルセンの「人魚姫」を現代的にアレンジしたトム・ハンクス&ダリル・ハンナの「スプラッシュ」がこのサブジャンルの定型を確立したと思う。人魚と人が恋に落ち、街でしばしの逢瀬を楽しむが、科学者や軍といった敵による拉致の危機が迫り――というパターンだ。「シェイプ・オブ・ウォーター」は「スプラッシュ」の男女の設定を入れ替えて(男が半魚人、女が人間)終盤の展開もほぼ完コピーだったし、この「マーメイド・イン・パリ」もかなり「スプラッシュ」に近い筋ではある。

もちろん本作には、人魚のルラが歌で男を魅惑して死なせる(ローレライ伝説からの着想)、ガスパールが過去の失恋(ハートブレイク)で心が壊れているためルラの歌で死なないなど、気の利いたアレンジもある。そして何より、「アメリ」やミシェル・ゴンドリー監督の諸作、比較的新しいものではセーヌ川の船上レストラン/バーが重要な舞台になる点で本作と共通する「ロスト・イン・パリ」などのように、フランス映画で時折見かける、ポップでキュートな美術や仕掛けが物語を巧みに盛り上げ、オリジナルな魅力を高めている。

本作が初の長編実写映画となるマチアス・マルジウ監督は、デビュー作がアニメーション映画「ジャック&クロックハート 鳩時計の心臓をもつ少年」だそうで(予告編だけ見たが、デフォルメしたキャラ造形とダークな雰囲気がティム・バートン監督っぽくていい感じ)、本作のオープニングなどでもその才能を垣間見せる。今後の活躍が期待される多才な映像作家だ。

高森 郁哉