「主張を抑えた再現ドラマ」めぐみへの誓い Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
主張を抑えた再現ドラマ
自分は、断片的なニュース報道以外は、蓮池透氏の本と、アメリカ人ジャーナリストが制作したドキュメンタリー映画「めぐみ-引き裂かれた家族の30年」しか知らなかったので、観に行った。
本作は、横田めぐみさんと田口八重子さんに焦点を当てて、知られている事実が乏しい中、想像をたくましくして作った“再現”ドラマがメインである。
そこに、横田夫妻の苦闘するシーンなどが挿入される。その他の「家族会」のメンバーは、ほぼ出てこなかったと記憶する。
冒頭、街頭で署名を求めている時に、「朝鮮民族差別だ」とか、「アフリカでは飢餓の人もいるのに、なぜこのことに係わるのか」と言われるシーンが出てくる。
娘を救いたいだけなのに、こういうことを言われるのかと知って、気の毒になった。
ただし、支援者がしゃしゃり出て「国家主権の問題だ」と応酬するところは、ずれている気がした。
また、北朝鮮の工作員が、「かつては朝鮮を植民地にしていたのだから、拉致されても当然」と語っているところは、さもありなんであるが・・・。
“再現”ドラマとしての本作の特徴を挙げると、拉致される前は“源氏名”で働いていたという田口さんを、良いのかなと心配になるほど、妖艶に描いていること。(金賢姫かと思われる人物に、日本のことを教えている。)
精神を病んでしまったとも言われているめぐみさんを、決してそのようには描かないこと。
そして、ラスト付近でめぐみさんの“夢”を、長尺を割いて描くことなどである。この“夢”については、自分は制作の意図がよく分からなかった。
もともと舞台作品だったようで、上記の“夢”も含めて、少しアート系の香りがする作品である。
新しい知見は何もないはずだが、生き生きとしており、“再現”ドラマとしての感触は良い。
本作に政治的主張は、ほぼないと言っていいと思う。
右傾化していると言われる「救う会」の話は出てこない。本作の公式ホームページを見ると、監督はもしかしたら極右系の人物かもしれないのだが、そういう内容も出てこない。
主義や立場に係わらず、安心して観ることができる作品である。