「拉致問題の啓発と映画としてのエンターテイメント性を両立させた力作」めぐみへの誓い 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
拉致問題の啓発と映画としてのエンターテイメント性を両立させた力作
北朝鮮による日本人拉致問題を主題にした初の劇映画だ。忖度と同調圧力が優勢であるがゆえ、現在進行形の政治や外交上の問題をテーマにした映画がなかなか作られないこの国で、多難を乗り越えよくぞ完成、公開にこぎ着けてくださったとスタッフ、キャスト、そしてクラウドファンディングなどで応援した支援者の方々に感謝と敬意を表したい。
横田めぐみさんのケースは、日本政府が認定した拉致被害者17人の中でも特によく報道され、概要程度は見聞きしていた人も多かろう。しかし評者も含めそうした記憶が風化しつつある人も少なくないはずで、だからこそ、めぐみさんをはじめとする被害者らが受けた理不尽な人権侵害と被害者家族の思いをドラマ形式で観客に疑似体験させる本作は、貴重であり意義深いものだ。
それでいて、決して啓発一辺倒になることなく、純粋な劇映画として見応え十分な出来になっている。原田大二郎、大鶴義丹、小松政夫、仁支川峰子らベテラン陣はもちろん若手の演技も確かだし、自身が作った舞台劇を自ら映画化したという野伏翔監督の演出はキレがあり、サスペンスを盛り上げつつ、恐怖や悲しみ、家族を想う気持ちといったさまざまな感情を効果的に伝えている。
拉致問題についてもっと知りたいという向きには、韓国のドキュメンタリー映画「将軍様、あなたのために映画を撮ります」がおすすめだ(アマゾンのプライム特典で視聴可)。こちらは韓国の映画監督と女優の元夫婦がそれぞれ北朝鮮に拉致され、キムジョンイルのために映画製作をさせられた事件に迫る。2人が拉致された時の状況を語っており、北朝鮮による拉致の実像をより多面的に知る助けになるだろう。