「暗殺犯か、革命家か」KCIA 南山の部長たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
暗殺犯か、革命家か
何せ韓国の歴史&政治絡みのサスペンス。小難しいの何のって。
韓国当時の時代背景も詳しくないし、登場人物らが入り乱れる。特に、登場人物にパクやらキムやら同名が何人か。
見始めはなかなか入り込めず、こんがらがっていたが、一つ一つ整理し、把握しながら見ていったら、やはりさすがの見応えたっぷりの韓国サスペンス!
1979年、韓国で起きたパク・チョンヒ大統領暗殺事件。
韓国では知らぬ者は居ないという衝撃の歴史的事件だとか。
しかも暗殺したのは、大統領の側近だった中央情報部=KCIAの部長。大統領に継ぐ権力者だった…。
ノンフィクションを基に、脚色を加えて映画化。人物名など変えられている。一大事件…いや、タブーだから、実名は無理だったか。
何故、KCIA部長は大統領を暗殺したのか…?
事件発生40日前に遡る…。
そもそもの始まりは、前任のKCIA部長ヨンガクによるパク政権腐敗告発。
激怒のパクから事態の収拾を命じられたのが、KCIA現部長キム。
これが彼の運命を大きく変える事になる…。
アメリカに居るヨンガクに会う為、渡米。再会。
元上司で、友人。説得するが、応じない。
そんなヨンガクから驚愕の話を聞かされる。
KCIA部長時代、信じていた大統領に切り捨てられた。また、KCIAも知らない大統領を陰で動かす“イアーゴ”なる人物の存在…。
大統領を崇拝するキム。
全てはこの韓国(くに)の為。革命の為。
あの漢江に掛かる橋の上の時から。
そんな筈はない。
大統領を信じている。
が…
ヨンガクの“始末”。
大統領は直接下さない。
「君の好きのようにしろ」
それを受け止めたキムは…。
何かとキムをライバル視する警備室長のサンチョン。大統領にキムの不手際をアピールして信頼を失望させる姑息な罠。
大統領を敬愛していたキム。
キムを信頼していた大統領。
次第に不和が…。
大統領に忠誠を誓い、国を思い、その一方で複雑な感情を滲ませる。イ・ビョンホンが得意のアクションは抑え円熟の演技で、個人的には『王になった男』と並ぶベスト・パフォーマンス!
クァク・ドウォン、イ・ソンミン、イ・ヒジュンら周りの火花散る名アンサンブル。特に、大統領役ソンミンの変わりよう、警備室長役ヒジュンのに憎々しさは存在感放つ。
衝撃の実録事件扱いながら、一級のエンタメ・サスペンスに仕上げてしまう辺り、見事と言わざるを得ない。
ヨンガクの“始末”までの顛末はスリリング。
スパイ映画のような暗躍、出し抜き、腹の探り合い、裏切り…。
盗聴シーンはかの『カンバセーション…盗聴…』を思わせ、ニヤリとさせる。
その盗聴で、キムは知ってしまう。
これまで大統領を支え続けてきた。大統領の為に汚れ仕事もした…友を消すという事も。それもこれも全ては革命の為。それなのに…。
大統領はもう自分の事を信頼してくれていない。それどころか、切り捨てようとしている。ヨンガクの時のように。
さらに、サンチョンに“あの言葉”すら。
キムをどうするか…?
「君の好きのようにしろ」
信じ、敬愛し、崇拝していた大統領からの聞きたくもなかった言葉…。
揺さぶられ続けていた葛藤が、遂に決意を固める。
暗殺決行日。
大統領、サンチョン、側近らと会食の席。
キムは大統領との思い出や思いを語りつつ、辞任を要求する。
飲み交わしていた酒が不味くなる修羅場に。
役者たちの迫真の熱演、いつ銃を抜くのか、いつ“その時”が訪れるのか…緊迫度はMAX。
そして…
大統領とキムの信頼関係は確かなものだったろう。
大統領は自分の後継者にキムを推すも、キムは「私が大統領をお守りします」。その言葉にも偽りはなかっただろう。
が…
真っ直ぐ見据えたキムの革命。
同じだったものの、“権力”が大統領を変えた。
釜山や各地で起きた暴徒。キムは非武力で解決しようとするが、大統領とサンチョンは武力で解決。大統領の口から信じられない言葉まで…。
「戦車で轢き殺してしまえばいい」
この事件にはまだまだはっきりしない部分が多いとか。
警備室長との派閥争いに敗北、それによって大統領に捨てられる事を危惧し…。
キムが大統領暗殺を決意したのは、自分がトップの座に付く私利私欲だったのか…?
彼は、暗殺犯か、革命家か。
勿論、罪を犯した彼はヒーローなどではない。血でずっこけるシーンなど滑稽。が、一握りでも後者であった事を信じたい。
国の行く末を思って悲しきクーデターを起こした。
しかしそれが引き金となって、また新たな軍事独裁政権やあの“光州事件”へ続くかと思うと…。