配信開始日 2020年9月7日

「愛しのタコーロマンチストとエゴイスト」オクトパスの神秘 海の賢者は語る 山川夏子さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0愛しのタコーロマンチストとエゴイスト

2021年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

第93回アカデミー賞(2021年)ドキュメンタリー部門賞受賞作品。

面白かった!
子どもと観に行っても、カップルで観ても、一人で観に行くのもおススメ!の作品です。

南アフリカの「海藻の森」と呼ばれる特定のエリアを定点観測のように海に潜って、出会ったSHE(彼女)、タコ。

サメも泳ぐ危険な海域で、用心深く、高い知能で身を守りながら、必死で生きるタコに心惹かれて、一年以上毎日、同じ海に潜り、彼女を見守り続けたドキュメンタリー映像作家クレイグ・フォスターさんの、海の生物への愛があふれ出る作品。

西洋では「悪魔」として忌み嫌われるタコも、サメのいる海では弱い存在で、生きるために身につけた知恵、機転の早さに驚かされます。サメに狙われる彼女に「逃げて!」「頑張って生きて!」と心の中で叫び出したくなります。

被捕食者のしての彼女と、捕食者としての彼女の顔。貴重な生の営みや、曲線を描いてエレガントに踊るように泳ぐ彼女、鋭角的に体をとがらせてロケット噴射のように危険な場所から脱出する姿はSFの世界に迷い込んだかのようです。

画面の中の彼女を応援しながらも、クレイグさんが愛情を注いで撮影するタコは本当に魅惑的で、時おり、たまらなく美味しそうな肢体を披露するので、サメに襲われかけた時に、瞬間(美味しそう……)と感じた場面も、私は、正直言うとありました。

直前まで彼女を応援してたのに、彼女と私は捕食者と被捕食者の関係で、私はサメの側の生き物だった、身勝手に感情移入をする「私はエゴイストだ」と自覚させられます。自己嫌悪を感じながら、ひきつづき彼女の生活をのぞき見していると、彼女が私の目の前で生き物を捕らえ丸呑みして、小さな命を奪っていきました。

山川夏子