劇場公開日 2020年12月18日

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「私がマルガリータよ。さあ今夜は何がお望み?」声優夫婦の甘くない生活 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5私がマルガリータよ。さあ今夜は何がお望み?

2020年12月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

イスラエルに移住してきた、ソ連で生まれ育ったユダヤ人夫婦。二人は有名な声優同志。夫ヴィクトルは「あの声で恋をした。まだ会いもしないうちに」と妻ラヤの魅力を語る。しかし、その言葉は甘い響きをもつ思い出であるのみならず、物語の重要なカギを握ることになる。そう、その声だからこそ、吃音の男も恋をし、夫も気付くのだから。
ラヤの仕事ぶりは、生活のためだけでなく、今の自分の存在を確かめるかのような充実ささえ感じる。だからこその反動(嘘のしっぺ返し)として、差し出された"百万本の紅いバラ"が虚しく悲しいのだ。この歌と言えば、僕には「北の国から」の正吉なのだけど、あの時正吉が用意したバラに負けないくらいにとっても切ないシーンとなっていた。なぜならば、はじめ、夫に従う慎しみ深い妻に見えた岸田今日子似のラヤが、もっとも感情豊かな表情をするのは、この別れのときなのだから。それは、純愛だとは、言えない。誠実とは、ほど遠い。けど、惜しいものを失ったのだということは痛いほどよくわかるのだよな。
原題は「Golden Voices」か。ヴィクトルも含めて、ということか。意味深だなあ。

栗太郎