「ハードボイルドな青春を生きるふたりの最果て、バックボーンをもっと掘ってほしかった…」NO CALL NO LIFE たいよーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
ハードボイルドな青春を生きるふたりの最果て、バックボーンをもっと掘ってほしかった…
想像を遥かに上回るハードボイルドな青春群像劇。井樫彩監督の演出光る繊細さと途方もなく堕ちてゆく二人の熱演に心を打たれた。ただ、足りない部分もいくつか見られ、少し惜しい映画になってしまった。
ネグレクトの母を持つ春川真洋と、父からの歪んだ愛情を受けて育った佐倉有海。似た雰囲気を感じるふたりは惹かれあってゆく。しかし、周りから「春川はやめとけ」と言われる。それでも堕ちてゆくように求めあうふたりは、共に愛を求めてさらに深いところへ入ってゆく…。
主演の優希美青は若干21歳ながらも経験値の高いヒロインであり、その安定感は作品の太さを作ってゆく。一方の井上祐貴も難しい役どころを我が物にする演技で魅了していく。よって、単なる青春群像劇に終わらない深みを生み出している。その安定感に加え、ネグレクトの母を演じた桜井ユキ、キャピキャピした友達の小西桜子がいい味を出している。
一方で、内容は決して爽やかとは言えない程に重い。主人公のふたりは愛し方を知らない。故に、どこまでも堕ちてゆく姿は『本気のしるし』が高校生同士で起きているように思えるほど。ただ、その一方で、互いのバックボーンや留守番電話の謎まで掘りきれていないのが惜しい。秘密と過去より苦しい展開が待っているのだが、そこが描かれないのは消化不良。故に、"惜しい"と思う。しかし、監督もまだ20代で、光と独特な音楽が二人だけの国を作り上げ、誰も立ち入ることが許されない雰囲気の出し方に、センスを感じる。非常に堂々とした描き方で、迷いを感じない。なかなかの才能の持ち主だと思う。次作が楽しみだ。
油断していたので、ここまで重く優しくキラキラと魅せられるのかと感服してしまった。上映館が少ないことが悔しく思えるほど。愛を衝動だけでは片付けられない二人の行方に胸が痛くなる。そして、互いが呼応するような日々がなくては生きていけないのだと、タイトルの意味を噛みしめ続ける。