「内戦が続くシリア。 恋人アビール(ディア・リアン)と一緒に乗った列...」皮膚を売った男 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
内戦が続くシリア。 恋人アビール(ディア・リアン)と一緒に乗った列...
内戦が続くシリア。
恋人アビール(ディア・リアン)と一緒に乗った列車の中で浮かれたサム(ヤヤ・マヘイニ)は、そのときの発言がもとで当局から政治犯としてにらまれてしまう。
しかたなくレバノンへ脱出したが、アビールへの想いは募るばかり。
一方のアビールは、身の安全を心配した両親から、国外避難の道として外交官事務補佐の男と結婚させられ、欧州へ移ってしまった。
そんなある日、日々の食い扶持にも困ったサムが潜り込んだ芸術家ジェフリー・ゴッドフロイ(ケーン・デ・ボーウ)のエキジビジョンの場で、そのジェフリーから奇妙な申し出をされる。
それは、サムの背中を売ってほしいというもの。
サムの背中をキャンバスとしてアートタトゥーを彫る、サムは美術品の一部となり、大金とヨーロッパへの移住が可能となるというもの・・・
といったところからはじまる物語で、アート界で実際にあった事件にインスパイアされた監督のカウテール・ベン・ハニアが脚本も書いて映画化したもの。
発想自体も面白いが、実際にアートとしてあったというのだから驚きです。
映画は、アートというものへの皮肉な視点によって、物語自体に潜むヒューマニティ的な要素すらシニカルに描いていきます。
こう書くと、なんだか堅苦しい映画のように思えるけれど、映画の底に流れているのはサムとアビールのロマンス要素であるので、シニカルでありながらも、ある種のぬくもりのようなものを感じます。
映画は後半、アート作品と化したサムはオークションに懸けられ、そのオークションの場でとんでもないことをしでかします。
ここは、ヨーロッパにおける中東人への偏見がひしひしと感じられます。
中東の民といっても全員が全員、イスラム教徒ではなく、この映画でもアビールは髪を覆い隠していないところから察するに、ふたりはキリスト教徒かもしれません。
(実際、シリア人の1割ほどはキリスト教徒)。
最終的に、サムとアビールは故郷シリアのラッカに戻るのだが、サムはISに捕らえられてしまい・・・
と、ここから先は、アッという展開。
ちょっと人を食ったような決着にはニヤニヤしました。
アート映画ならぬ、アッと映画ですねぇ。
追記>
芸術家ジェフリーの作品をプロデュースする女性ソラヤ役の女優さん、モニカ・ベルッチに似ているなぁ、と思っていたら、あらビックリ。
モニカ・ベルッチでしたわぁ。