劇場公開日 2021年11月12日

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「意外にもブレのないラブストーリーが主軸だった。」皮膚を売った男 ピラルクさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5意外にもブレのないラブストーリーが主軸だった。

2021年11月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 この主人公、ちゃらけた男かと思ったが、話がすすむにつれ、愛一筋の芯のある男だとわかってきた。タイトルと予告編から、こみいった事情の、こみいった話しかと予想したが、観てみれば意外、ブレのないラブストーリーが主軸だった。その主軸があるから、多少はあったこみいった事情も推測でついていけた。
 胡散臭い芸儒家も、話がすすむにつれて、……いや、これはネタバレだから書くのは留めておこう。

 シリアの情勢を伝えるニュースをTVでみても何も残らないが、この映画をみて、つかみどころのある感触でシリアがちょっとわかった気がした。映画は社会的な問題を伝えようとはしていないのに。こういうところが映画の力だと思う。

 破れかぶれな状態から好転して、私は『ここで終わってくれ』と念じたが終わらなかった。そして『なぜこんなシーンをつなげるのか』と落胆した。そして、本当のエンドクレジットが出たとき、私の想いは脚本家の手のひらで見事にハマって転がされていたと知った。
 思い返してみれば、作品を理解するのに必要な予備知識は、シーンを通してくどくどしくならず上手く伝えられているなと感心した。保険屋がガンはかまわないが爆死は困るとか。牢に入れられて自由を奪われたサムが、二度目の牢の中で逆に自由を感じている対比も印象的だった。細かくはさみこまれたこの時代の日常あるあるシーンも、観賞のよい潤滑剤になっている。

 唯一、ひっかかるというか乗り越えられない共感ポイントは、ビザをタトゥーにするという芸術的な価値・意味・企図である。まぁそこがリアルに共感できるなら、実際にそういうアートが存在しているか、あるいは模倣されるだろうし。よってここは映画。半分おどぎ話であってもよいかと捉えた。

 個人的なことだが、この日、朝がいつもより早くて、映画をみるにあたって睡魔が心配された。しかし杞憂。派手なシーンはないのに集中して観賞することができた。睡魔どころか、むしろ逆に冴えたぐらいだ。

ピラルク