劇場公開日 2021年11月12日

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「ホラー映画ではないので要注意。要難民問題知識(軽くでも良いので)」皮膚を売った男 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ホラー映画ではないので要注意。要難民問題知識(軽くでも良いので)

2021年11月13日
PCから投稿

今年171本目(合計235本目)。

タイトルやチラシ等からは一見、ホラー映画かなと思えるのですが違います(ここの特集などからもわかります)。
ストーリー自体は完全に架空のお話ですが、シリア難民を取り巻く問題(より広くいえば、難民問題そのもの)はリアルに存在するのであり、その点でいえば「学術系かそれに準じる内容」とは言えそうです。

内容については多くの方が書かれている通りで、同じことを延々書いても仕方がないので省略。アート映画という性質もあり、美術品などかなりきれいに描かれています。

結局のところ、難問問題を問う映画かというようにも読めますが、私は別の筋で観ました。
つまり、「表現の自由は絶対無制限に保証されるのか?」という問題です。他人を(身体的に)傷つけるようなものは許されませんが、「自己を傷つけるアート」であれば、いわゆる「愚行権」(愚かな行為だとわかっていても、それをする権利のこと)との関係で許されるのか?という問題です。

 日本では「アートと自傷行為」というくくりではタトゥー文化がそれに該当しますが、日本では若者文化の一つとして少しずつ受け入れられつつもあるような文化も、国が違えば「彫らないと生きていけない」ところもあるわけです(もっとも、このお話自体は架空のお話ですが)。タトゥーに限らない話で、自己の望む芸術の表現のために、たとえば自己の手首に傷をつけるなどの行為が許されるのかどうか?ということは、あまり論じられてこなかったように思います。
もっとも、日本ではそのような表現は、表現の自由は最大限尊重されても、そもそも「自分の体であっても傷つけてまでやるほどのものではない」という認識なので(タトゥー文化除く)、余り意識はされてこなかったのですが、より広く、この映画もそうですが、「自分の夢をかなえるために、それを実現するために、「相手を傷つけない範囲で」表現の自由はどこまで尊重され保障されるか?」という、日本では憲法論になるかと思いますが、憲法論以上に哲学的な話にもなって、色々な回答があるかと思います(そして、「表現の自由も言論の自由も保障される」ように、この問題に「絶対唯一の答えはない」とも思います)。

個人的にはこの筋で観ましたが、それも一つありかなと思います。

私も多くの方も書かれましたが、シリア難民を扱う映画ですので、最低限その予習があると良いかなと思います(あるかないかだけでも全然違います)。

評価は下記が気になったものの、4.5以下にする根拠がないので、満点にしています。

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(減点0.1) この映画、サウジアラビアか、アラビア系の国とフランス等の合作のようです。オープニングは白い描写に白い文字が出るという、かなり「見づらい描写」になっています(日本では、文字が見にくいという方への配慮のため、ある程度は色差をつけましょう、ということになっている)。とはいえ、その部分は著作権表示などで、そこには大切なことは何も書いていない(例えば、「本作品は一部について小説を参考にしています」などは、エンディングにちゃんと「見える文字で」出ます)のが救いです。

この点は字幕が何もなく(もっとも、字幕をつけたところで、著作権表示しかない)、色の同化がすごくて理解が難しいのですが、日本では何らか配慮が欲しかったです(バリアフリー映画で、音楽が流れるところで「♪~~」と表示されるように、趣旨を類推して「(著作権表示)」などとあるだけでも、違っていたと思います)。
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yukispica