「WIN-WINの契約?」皮膚を売った男 shironさんの映画レビュー(感想・評価)
WIN-WINの契約?
ラストの怒涛の展開に大興奮!
ビザを取れない人の背中にビザを描き、芸術という付加価値を付けることで、ビザを持たずして世界を行き来できるようになる皮肉。
人間の尊厳を放棄してモノになることで得られる自由。
芸術の名のもとの傲慢さ、芸術を笠に着る商人に、愛憎劇まで加わって面白すぎる!!
ワンシーンワンシーンにいろんなメッセージが込められていて、映画の楽しさを満喫しました。
序盤の、揺れる電車の窓枠越しの二人は
国内の事情に詳しくない私にでも、この先に障害が待ち受けていることや、二人の立場が不安定なことが伝わります。
全体を通して、鏡やガラス、フレームなどが効果的に使われていて、二面性や虚像や芸術性を強調していました。
タトゥーを入れるラボのシーンで流れるオペラのアリア(?)が素晴らしく、芸術を生み出す行為を高尚な美しさで印象づけていたと思いますが、とくに2回目の生身のグロテスクさと修復の繊細さがものすごく好き!!
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、理由があって強烈に印象づけていたのだとわかります。
高級なローブの美しい動きや、模様の入った豚の置物など、暗示や隠喩も効いていて
なかでも一番のお気に入りは美術館に並ぶ人の列を見るシーン!
しょっぱなから額縁を意識させるアングルと銅像。
自分では気づかないうちに、既に美術品側の作品になっている感じが面白い。
《以下、ファーストシーンでわかることなのでネタバレではないと思いますが…》
タトゥーが芸術であることは理解できます。
とくに和彫りの美しさったら。
その昔、旧池袋文芸坐ル・ピリエで、彫り師さんによる実演付きトークイベントがありました。
いろんな国のタトゥーをスライドで見ながら、タトゥーの歴史や文化、モチーフの意味、和彫りと洋彫り、手彫りと機械彫りの違いなど、貴重な説明を聞くことができ、それまでちょっと怖いと思っていた認識が180度変わりました。
タトゥーは文化であり、メッセージであると同時に芸術でもあるのだなぁ。
魔除けの意味を持つ、幾何学模様で単色のタトゥーも美しいと感じましたが、とくに和彫りの線の細さ、ボカシによる陰影、発色の美しさに驚きました。
そのトークショーで、刺青の標本が存在することも知りました。
本人が死んでからも作品として永遠に残るのかぁ。
イベント当日、実演のモデルさんが発熱で来られず、残念ながら刺青の施術を生で見ることは出来ませんでした。
もしかしたら、はなから客寄せだったのかも…?そんな疑念もよぎりつつ。(^^;;
でも、もし、本当にそんなモデルさんがいたとしたら、出演を決めた経緯は何だったのか?
刺青を広める為の使命感?
彫り師さんの熱狂的なファン?弟子?
はたまた、お金に困ってのビジネスライクな関係だったのか?
今でも気になります。
自分から望んでした事なら、良くも悪くも自己責任だけれど、結果として利用される立場に見えてしまうと人権侵害や搾取になりかねない。
逆に利用して自分の本当の目的が達成出来れば人生の勝者になれる。持たない者にとっては一か八かの大勝負。ビッグチャンスでもある。
芸術家はこの契約によってセンセーショナルな現代アートを残すことができた。
届けたいメッセージは、ビザを取得出来ない人=自由に国を行き来出来ないことへの問題提起であって、移民や民族差別、格差社会に言及している。一か八かの大勝負に出なくても良い世の中を訴え、最後には更にもう一つのメッセージまでも加わって…
芸術家の作品は主人公の立場の人々へ還元される。
芸術家の一人勝ちかと思いきや、主人公の一人勝ちだったのかもしれない。