凱歌のレビュー・感想・評価
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強い人間のお話です。
凱歌、勝って歌うもの。英題を直訳すると「勝利の歌」
なぜこの題名?異質な感じを持って鑑賞。
本作品は不当な差別、扱い、偏見を乗り越えてきた元ハンセン病患者の
ご夫婦のドキュメント。また、本作は不当な扱いの中でも最も人間の尊厳を
傷つけるであろう、断種にフォーカスしています。過去を明らかにし世の中に
アピールすることを目的にした作品ではないかな?って思います。
断種に関しての当事者の方々の話は聞くに耐えません。
克明な手術の様子や実行してた医師達の発言、行動などが話されます。
あまりに残酷な過去です。
人としての存在意義、いや存在自体を否定されてきたハンセン病を患った方々は、
打ち負かされて、叩きのめされ、社会から抹殺されてきたのでしょう、
息を潜め身を潜めざるを得なかったのでしょう。
山内さん夫婦はその中でも、許される権利を行使し、穴の空いたココロを埋める
努力をし、周辺の理解者の方々の助けもあり、すごい境地に達します。
精神的な境地に。
国や周囲、場合によっては家族からも存在意義を否定される中、
自ら存在意義をつかみとる、ゆえに行動に移せるのでしょう。
ゆるぎないその意思は伝播し、現代の同病者の光となり支えとなる。
まさに礎となっています。
山内さんご夫婦のケースはまれでしょう。
それが叶わなかった方々も含め、今の礎となっていると思います。
だからこそ同症状の19歳の子には笑顔がある。
辛い事も沢山あるだろうけど、笑顔がある。
自身の将来を考え、悩む19歳がそこにいる。
将来を奪われた方々が礎となり、
「あなたには将来があるのよ!」と強く背中を押す。
礎になりえたのは、人間扱いされず、存在意義を否定されながらも
人間の尊厳を諦めず人間として生きようとした人のまさに
「勝ち得た」ことなんだろう。
ゆえに「凱歌」なのだろうか?
演出としては、関係者のインタビューが長回しでそのまま入ってる。
故に、直に話を聞いている気になる。空気まで伝わってくる、
「手触り」を感じる映像であった。
自分自身、強く、強く、、、ありたいと心底思った。
静かなる爆発
「優生保護法」や「無らい県運動」に基づく「断種」政策によって、ハンセン病患者が生物学上の血族を持てなかったことに対する苦しみが、作品のメインテーマである。
映像は「多磨全生園」の山内さん夫妻と、中村さんの3人に密着する。メインキャストは、山内きみ江さん。
結婚できるのなら、「断種」さえもいとわなかった夫・定さん。そして「断種」した夫を見て、悲しんだきみ江さん。
ドキュメンタリーとしては、やや残念な作品と言わざるをえない。
2020年にこの問題を語るのであれば、少し視野を広げるべきではなかったか。
一昨日のNHKでも、「旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された人が国を訴えた裁判」のニュースがあった(判決は、”憲法違反だが、賠償請求権は認めない”)。
患者の心の支えとなっているという“信仰”についても、ほぼ何も語られない。
また、ハンセン病に係わる歴史は、ほぼキャストの証言で語らせるのみである。もちろんその分、リアリティをもって伝わってくる。
しかし観客は、自分も含めて素人が多いであろうし、中には小泉政権の控訴断念すら知らない人もいるかもしれない。
時系列を整理してインタビューを編集し、コメンタリーを挿入すれば、もう少しこの悲劇的な歴史が浮彫になったのではないか。
国の内外を問わず、映像芸術性を追い求めて、客観性を置き去りにする作品が多い。しかし、ドキュメンタリーはもっと“密着性”と“俯瞰的なアプローチ”を、車の両輪として走らせるべきではないだろうか。
しかしながら、日本社会事業大学に招かれた時の映像を含めて、映画の後半におけるきみ江さんの語りは衝撃的なものがある。
「死ぬはずだった夫が生き残って再婚できなかった」と冗談を言うシーンもあるが、「治ったら良かったと思うか」と聞かれて、「ハンセン病は与えられた運命だった」、「自分を見て、健常者は五体満足に感謝の気持ちをもって欲しい」という旨の答えには、自分はびっくり仰天してしまった。
詳しくは、この映画を観て欲しい。
「凱歌」というタイトルは、どこからきたのだろう?
2009年から10年間の映像記録とのことだが、自分の聞き間違えでなければ、本作は監督が制作を依頼されたのが端緒だという。
ちらしの写真は、ラストシーンである。美しい桜に囲まれて、“80代半ばまで生き抜いたぞ!”という、「凱歌」を上げているのであろうか。
きみ江さんは患者の中でも特殊かもしれないが、映画後半にきみ江さんのキャラクターが静かに爆発する本作は、間違いなく一見に値する。
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