「メキシコの寒村からふたりの青年が旅立った。 向かった先は隣国米国。...」息子の面影 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
メキシコの寒村からふたりの青年が旅立った。 向かった先は隣国米国。...
メキシコの寒村からふたりの青年が旅立った。
向かった先は隣国米国。
しかし、一向に音沙汰がないことから青年の母マグダレーナ(メルセデス・エルナンデス)は心配になってしまう。
ともに旅立った青年の母親とともに警察に行くと、最近2週間のうちに発見された身元不明死体の写真をみせられる。
その中には、ともに旅立った青年の特徴の額の白痣のある死体の写真があった。
マグダレーナは、矢も楯もたまらず、青年ふたりが消息を絶った国境の町へ単身赴くことにした・・・
といったところからはじまる物語で、特徴ある語り口で映画がすすんで行きます。
どのような特徴かというと、マグダレーナを追うだけでなく、脇の人物のエピソードがかなり長めに挿入されており、巻頭は白痣のある青年の母親の方が長く映し出されており、てっきりこちらが主人公かと思った次第。
マグダレーナが国境の町に向かってからも、米国から強制送還される青年の姿が延々と映し出され、「この人物は誰?」ということになります。
が、彼(ミゲルという名(ダビド・イジェスカス))が米国の入管を出、メキシコの入管へ到着、さらに国境の町へ出るまでをワンショットと撮っており、ここが映画前半の見どころでもあります。
米国から強制送還されたミゲルは数年ぶりに故郷の村に帰りつくのですが、生家は崩壊、村に住人は残っていない。
国境の町周辺では暴力は日常茶飯事、強奪殺人も頻出している。
こんな辺鄙な村でマグダレーナとミゲルが出逢うのですが、息子が乗ったバスは襲撃され、その生き残りの老人がこの近くにいるという。
老人は、湖沼の反対側に住んでおり、その襲撃の様を聞きに行くとマグダレーナは言うわけです。
本編の白眉は、その老人の語りに重ねてのバス襲撃事件。
老人はスペイン語は話せず、当地の方言しか話せない。
台詞は当地方言で、日本語字幕も出ません。
そこへ重ねられる悪行の様は、まさに「悪魔をみた」といっても過言ではないでしょう。
息子は死んだもの、と観念したマグダレーナでしたが・・・・
となればある種のハッピーエンドを予想するところですが、そうはいかない。
もうひとつ、恐ろしい事件が起き、ミゲルが死んでしまう。
この終盤も衝撃です。
引き取り手のいないミゲルの遺体をマグダレーナが引き取るところで映画は終わるのですが、とにかくこれほどまでに暴力に満ち溢れた世界が(戦争でもないというのに)あるということがいちばんの衝撃です。
いや、ウクライナのみならず、世界は戦争状態なのかもしれません。
そう思わずにはいられない衝撃作でした。