「多様性に配慮した新時代のスーパーヒーロー映画。 齢7,000だろうが惑うもんは惑う。」エターナルズ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
多様性に配慮した新時代のスーパーヒーロー映画。 齢7,000だろうが惑うもんは惑う。
アメコミヒーロー映画「MCU」シリーズの第26作。
太古の昔より人類を守護してきた10人の戦士「エターナルズ」の戦いを描く。
監督/脚本は『ザ・ライダー』『ノマドランド』の、オスカー監督クロエ・ジャオ。
エターナルズの1人で、飛行能力&レーザービーム能力を持つ戦士イカリスを演じるのは『シンデレラ』『1917 命をかけた伝令』の、名優リチャード・マッデン。
エターナルズの1人で、エネルギーで作り出した武器を操る女戦士セナを演じるのは『Mr.&Mrs. スミス』『マレフィセント』シリーズの、レジェンド女優アンジェリーナ・ジョリー。
主人公セルシの恋人、デイン・ウィットマンを演じるのはドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズや『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のキット・ハリントン。
エターナルズの1人で、マインド・コントロール能力を持つ戦士ドルイグを演じるのは『ダンケルク』『アメリカン・アニマルズ』のバリー・コーガン。
エターナルズの1人で、強力なパンチを繰り出す戦士ギルガメッシュを演じるのは『新感染 ファイナル・エクスプレス』『神と共に』シリーズのマ・ドンソク。
エターナルズの敵である「ディヴィアンツ」のリーダー、クロの声を演じるのは『IT/イット』シリーズや『デッドプール2』のビル・スカルスガルド。
サノスの弟と名乗る謎の男、エロスを演じるのは『ダンケルク』のハリー・スタイルズ。
デインに語りかける謎の声を演じるのは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『グリーンブック』の、オスカー俳優マハーシャラ・アリ。
製作はケヴィン・ファイギ。
MCU26作目にして、最大の意欲作。
一気に10人の新キャラクターを投入し、宇宙規模どころか宇宙の起源にまで物語世界を拡張。誇張表現ではない、本物の「神」との戦いが勃発しそうな雰囲気が漂い始める。
正直ここまで風呂敷を広げてしまって収拾がつくのか疑問ですが、そこは天下のマーベルスタジオですから、何か策があるのでしょう。…あるよね?
監督にクロエ・ジャオを起用するという大胆さには驚く。
アート系作品を手掛ける彼女が、エンタメど真ん中のMCU作品でその手腕を発揮出来るのか心配だったが、それは杞憂に終わった。
壮大な大地や美しい夕日など、とことんまでアーシーな絵作りはこれまでのMCUにはなかった豊かさであり、かと言ってアート系に偏り過ぎているわけではなく、ヒーロー映画としての楽しさは忘れずに描いてくれていた。
エターナルズのメンバー構成も非常に大胆。
アンジェリーナ・ジョリーの様な誰もが知るレジェンドから、リチャード・マッデンやバリー・コーガンの様な次代を担う俊英、マ・ドンソクの様なアジアン・スター、ローレン・リドロフの様なデフ・アクターなど、現代に相応しい多様性を持ったキャスティング。
驚いたのはジェンマ・チャンというアジア系の女優が主演だったこと。
このメンバーなら圧倒的にネームバリューのあるアンジーか、白人イケメン男性俳優のリチャード・マッデンが主役を張るというのが、これまでのハリウッドなら常識だったはず。それをジェンマ・チャンに譲るというのですから、時代の変化を感じたのと同時に、マーベルも凄い決断を下したなぁと感心した。
このように書くとポリコレに配慮した結果ジェンマ・チャンが主役になったのでは?と思われてしまうかも知れないが、いやそうではない。
正統派アジアン・ビューティーのジェンマ・チャンはとても魅力的で十分主役を張れるほどの華を持った女優さんだったし、本作においては彼女以上に主役に相応しい人物は居なかっただろう。
キャスティングについては全く不満はありません。
ざっくり言って、決して嫌いにはなれない映画です。
陰謀論スレスレのインチキ歴史ものって結構好きだし、7,000年もの長きに渡って世界中で戦い続けてきたというエターナルズにはロマンを感じずには居られない。
…でもねぇ…。
もう全員辛気臭すぎるんだよっ!お通夜かっつーの!!
7,000年も生きてきたにも拘らず、ウジウジダラダラと駄弁っては喧嘩して駄弁っては喧嘩して…。
トレンディドラマばりの三角関係でチーム内はドロドロ。
お前ら本当に神様レベルの上位存在なのか!?
齢40にして惑わなくなった孔子を見習ってくれマジで。
本作は『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』からインスピレーションを受けたのではないだろうか?
『B vs S』で提起された「スーパーマンが闇堕ちしたら誰も手がつけられない」問題を真っ向から描いたのがこの作品であり、イカリスはもうほとんどザック版スーパーマンそのまんま。
DCから影響を受けるのは良いんだけどさぁ。DC特有のあの暗くて重〜い感じまで踏襲しなくても良いんじゃないの?
カラッと明るく楽しいのがマーベルの良さだったのに、本作ではそれが死んでしまっている。キンゴやギルがムードメーカーとして頑張ってくれていたのだが、それでも拭い切れないほどの辛気臭さが本作には漂っている。
そりゃヒーローたちのアイデンティティが揺るがされる深刻な物語なんだから多少は暗くなったり重くなったりしても不思議じゃないんだけど、何も150分ずっとどんよりしていなくても良いんじゃないすか?
それと問題点がもう一つ。
これ、いくらなんでも詰め込みすぎじゃない?しかも初出の専門用語が冒頭から雪崩の様に押し寄せてきて、脳みそパンク。
セレスティアルズ?プライム・セレスティアル?ディヴィアンツ?プライム・エターナル?マッド・ウィリー?
……あー、日本語でおk。
くそ意味わからん専門用語に加え、新たな登場人物の名前も覚えんといかんから、もうこんがらがって頭がパーン😵💫💫
普通こういうのって、最低でも2〜3作を使って少しずつ情報を小出しにしていくことで、観客に理解させていくものなんじゃないんですか?
インフィニティ・ストーンなんかもそうやって描写してくれたから、なんとか頭がパーンってならずに済んだ。
これだけの情報量を一本の映画に詰め込むのはさすがに無理がある。お話のスケールも壮大なんだから、いっそのこと『ワンダヴィジョン』とか『ロキ』とかみたいに、ドラマシリーズでやったら良かったんちゃう?
脚本的にも気になるところがいくつかあるんだけど、何より許せなかったのはキンゴの扱い💢
いやいや、パンナコッタ・フーゴかお前はっ💦
クライマックス直前で離脱するってーことは、窮地に追い込まれた主人公を間一髪で救い出す、っていう展開への前フリでしょ普通は!?ちょうどキンゴの霊丸はそういうのにうってつけの能力なんだからさぁ。
この映画の脚本家は『スターウォーズ』観てないのか?
ディヴィアンツのクロはなんか雑に処理されちゃうし、ティアマットのやっつけ方はよくわからんし、イカリスはギャグみたいな勢いで自害するし、スプライトはよくわからん理屈で人間になるし、後半は結構無茶苦茶。
やっぱりこのお話を150分で描き切るのは無理あるよ😅
ブチ切れアリシェムくんに捕まってしまったセルシは一体どうなってしまうのか?
そしてMCUはどういう方向へと進もうとしているのか?
謎だらけのまま次回へ続く。
※エターナルズたちは皆、神話の登場人物のモデルになっている。以下にそれをまとめてみました。
①セルシ→キルケー(Circe)
…ギリシア神話の魔女。変身魔法が得意。
②イカリス→イカロス(Icarus)
…ギリシア神話の登場人物。空を飛べる羽を発明。調子こいてたら太陽に近づきすぎて死んだ。
③キンゴ→キングー(Kingu)
…バビロニア神話の神。マルドゥクに敗れてぶっ殺される。その血から人類が創造された。
④スプライト→スプライト(sprite)
…妖精ちゃん。
⑤ファストス→ヘパイストス(Hephaestus)
…ギリシア神話の神様。オリュンポス十二神の一柱。炎と鍛治の神。
⑥マッカリ→マーキュリー(Mercury)
…ローマ神話の神様。ディー・コンセンテスの一柱。商業の神。後に神々の伝令であるギリシア神話の神ヘルメスと同化。
⑦ドルイグ→ドルイド(Druid)
…ケルト人社会における祭司。オークの木を神聖視していたらしい。
⑧ギルガメッシュ→ギルガメッシュ(Gilgamesh)
…古代メソポタミアの伝説の王。ギルガメッシュ叙事詩は人類最古の物語とされる(B.C.3000年くらいにはもうあった?)。
⑨エイジャック→アイアース(Ajax)
…ギリシア神話の英雄。アキレウスに次ぐ強さだったとか。
⑩セナ→アテナ(Athena)
…ギリシア神話の女神。オリュンポス十二神の一柱。戦女神。ナルシスト。