「壮大なスケールと哲学的テーマが織りなす野心作」エターナルズ 山のトンネルさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大なスケールと哲学的テーマが織りなす野心作
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の第26作目として公開された『エターナルズ』。
本作は、オスカー受賞監督クロエ・ジャオが手掛けた野心的な作品である。この映画は、従来のスーパーヒーロー映画の枠を超えようとする試みと、マーベルファンの期待との間で揺れ動く、賛否両論を呼ぶ作品となった。
●映画の強み
1. 視覚的な美しさ:自然の壮大さと最先端のCGIを見事に融合させ、視覚的な傑作と呼ぶにふさわしかった。クロエ・ジャオ監督の特徴である自然光を活かした撮影手法が、壮大な宇宙の風景から地球上の多様な環境まで、息をのむような美しさで描き出している。
特筆すべきは冒頭の戦闘シーンで、古代メソポタミアの砂漠を舞台に繰り広げられる超人的な戦いは、観る者を圧倒する迫力と美しさを兼ね備えている。イカリスの眼光が放つ青い光線、セルシの指先から広がる金色の変容エネルギーなど、各キャラクターの能力表現も繊細かつ壮麗である。これらの視覚効果は単なる派手さを追求するのではなく、一種の芸術性を持ち合わせており、マーベル作品の中でも特に視覚的な魅力をもった作品といえるだろう。
2. 多様性:人種、性別、障害の有無など、多様なキャラクターが起用されており、現代の社会を反映している。
3. 複雑なキャラクター設定:各キャラクターの性格や葛藤が丁寧に描かれており、多面的な人物像が展開されている。
4. 哲学的なテーマ:「人類は救う価値があるのか」という重いテーマを扱い、鑑賞者に思索を促している。
5. 音楽:ラミン・ジャワディによる壮大なスコアが物語を彩り、ピンク・フロイドの「Time」など、印象的な楽曲も使用されている。
●課題点
1. 複雑な設定:MCUに馴染みのない観客には理解が難しい部分がある。
2. 映画の長さ:2時間37分という長尺の中で、映画の物語の進行や構成に関して展開にムラがあると感じた。
3. アクションシーン:静的な対話シーンと派手なアクションシーンの切り替えがあるため、人によっては従来のMCU作品と比べてアクションが物足りないと感じるかもしれない。
●物語の構成や進行に対するメモと感想
・時間軸の飛躍:映画は7000年にわたる物語を扱っており、過去と現在を行き来する構成になっている。この時間の行き来が唐突で、物語の流れを掴みにくくしている。
・キャラクター紹介の不均衡:10人もの新キャラクターを紹介する必要があるため、一部のキャラクターの描写が薄くなっている。重要な登場人物とそうでない人物の描写に差があり、物語の焦点が定まりにくくなっている。
・説明的なシーンの多さ:新しい概念や設定を説明するシーンが多く、物語の進行が停滞する箇所がある。また、物語の重要な展開や説明が後半に集中しており、前半と後半でペースが大きく異なると感じた。
これらの要因により、2時間37分という長い上映時間の中で、観客が物語に没入しづらい場面があったり、逆に情報過多で消化不良を起こしたりする可能性がある。
●総評
『エターナルズ』は、人類の起源から現代まで7000年にわたる壮大な物語を描き、従来のスーパーヒーロー映画の枠を超えた試みとして評価されている。しかし、その野心的なアプローチは、同時に従来のファンの期待とのギャップも生み出した。
マーベル作品を見慣れている人は期待値が高く、他のマーベル作品との違いも分かるため、アクションの程度などを比較して見てしまう。その一方で、マーベルを見慣れていない人からすると、内容が複雑だったり、純粋に映像美を楽しんだりすることもある。
この映画は、感情移入して涙を流すというより、大迫力の映像とスケールの壮大さを楽しむ映画という印象である。自分が知っている世界など、この世界のほんの一部なのだと気付かされ、旅に出たくなるような感覚を覚える。
キャラクターについては、光線を放つイカリスが最強のように描かれていたが、一撃が弱くてあまり役に立っていなかったように感じた。視覚的には映えるのだが…
また、永遠に子供の姿で生きることを強いられていたスプライトが、人間として成長できるようにした展開は、俳優の成長という現実的な問題に対する「天才的な」解決策といえる。
『エターナルズ』は、その壮大なスケールと圧倒的な映像美によって新鮮な体験をもたらしてくれた。しかし、同時にその野心的なアプローチが、従来のマーベルファンの期待とのギャップを生み出したとも考えられる。この映画は、MCUの新たな方向性を示す作品として、今後も議論を呼び続けるであろう。
最後に、この作品は映画館での鑑賞がおすすめである。大スクリーンで楽しむことで、その壮大なスケールと美しい映像をより深く味わうことができるであろう。