配信開始日 2021年11月25日

「客観的には問題点を指摘できるが、ファンにはやはり感慨深い」ザ・ビートルズ Get Back 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5客観的には問題点を指摘できるが、ファンにはやはり感慨深い

2021年11月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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これは想像だが、ピーター・ジャクソン監督と製作陣は、映画「レット・イット・ビー」を鑑賞したファンをメインターゲットに想定して、この3部作・計7時間48分に及ぶドキュメンタリー「ザ・ビートルズ Get Back」を構成したのだろう。劇場公開ではなく配信を選択して時間的制約を気にしなくてよくなったおかげで、たとえばポールがバイオリンベースをギター風にコード弾きして「ゲット・バック」のワンフレーズを思いつく場面から、ジョンにアイデアを借りて歌詞を足していき、アレンジを少しずつ改善して仕上げ、さらに納得がいくまで何テイクも録音を繰り返す様子など、楽曲の誕生から完成までの過程をじっくりと再現している。彼らのファンや音楽制作に携わる人にとってはありがたく貴重な映像だが、それ以外の観客なら未完成の状態も含む演奏を延々と聴かされてうんざりしてしまうのではなかろうか。

それに、「レット・イット・ビー」なども曲をインプルーブする過程は丁寧に追っているものの、映画「レット・イット・ビー」に使われたテイクは3部の最後でエンドロールに重なり、一曲通して見せてはくれない。ピージャクはおそらく映画と同じことはやりたくなかったのではないか。屋上コンサートで分割画面を多用したのも、複数台のカメラで撮ったマルチアングルのショットを単純にカットで繋ぐだけでは映画の同シークエンスと差別化しづらかったからだと思われる。

とはいえ、ファンとしてやはり観てよかったと思うのは、たとえば2部の中ほどで、ビリー・プレストンがスタジオを訪れて「アイヴ・ガッタ・フィーリング」の演奏にローズピアノで初めて参加した時の、ポールの「ワオ!」という心の声が聞こえてきそうな驚喜の表情。あるいは、もともと人前でライブ演奏をすることを発案したポールが、屋上コンサートの間際になって決行に反対していたのも意外だった。

万人におすすめできるコンテンツではないが、ビートルズのファンならこの3部作だけでもディズニープラス1カ月分990円の価値を見出せると思う。もちろん、「スター・ウォーズ」シリーズ、マーベルのスーパーヒーローもの、ピクサーアニメなども見放題なので、たとえば年末年始にかかるように1カ月だけ契約して、休みの間に観まくって元を取るという作戦もありだろう。

高森 郁哉